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「一色貴紀。」
「そうです。」
松永はため息を付いた。
「あのバカ…。」
彼は下唇を噛んだ。そしてホワイトボードに貼られている顔写真を見つめ、再び十河と相対した。
「さっきも言っただろう。覚悟はできている。」
松永は彼の視線からは目を離さず、こう言い切った。暫くの沈黙を経て十河の目が充血し、瞳から一筋の涙が流れ落ちた。
「十河…。」
「理事官、申し訳ございません…。私は嬉しいんです。若手警察官、しかもキャリアの貴方が一心不乱に真実を追い求めてひた走る姿を見ることができて…。」
「なんだなんだ。おまえやめろよ。本題はこれからだろう。調子が狂うじゃねぇか。」
松永は頭を掻いた。
「すいません。本題に移ります。先ほど私がお話したマルホン建設、仁熊会、金沢銀行の関係性に新たに加わるものがあるんです。それが衆議院議員本多善幸と我が県警です。」
「なに。」
「本多善幸と県警のつながりは10年前ほどからです。そのころ国政で大きな動きがあったのを管理官は覚えてらしゃいますか?」
「10年前?10年前って言うと…イラク戦争とかいろんな銀行が合併したとかそんなところしか思い浮かばん。国政レベルって言っても…あの時は…民政党の大泉総理の長期政権中だ…。いや、まて…そういえば、今の最大野党の政友党ができたのはそれぐらいだったかもしない。」
「そうです。政友党ができました。理事官。政友党の実力者は誰ですか?」
「小金沢だろ。」
「はい。小金沢は民政党を割って政友党を結成しました。ヤツは民政党で本多が幹事長になるまでの間、権勢を誇った大物政治家でした。しかし奴はどちらかというと民政党の中でもリベラルな立ち位置。いつの頃からか小金沢は官僚に実質的に支配されているこの国の形を憂い、今一度改めて政治主導の国を作るという思想を高らかに叫ぶようになります。この小金沢の主張は民政党の中で物議を醸し出すことになります。そのころ小金沢に真っ向から対立する形で政治主導の思想に異を唱えたのが本多善幸でした。彼は昔ながらの利益誘導型の政治家。官僚の思惑と自分の票を上手くすり合わせることによって、その盤石な地盤を築いてきました。民政党自体がそういった背景を持つ議員ばかりで構成されていましたので、彼の意見は党内で一気にコンセンサスを得ることになります。ここで小金沢と本多の対立が表面化します。どちらも民政党のベテラン議員。両者の権力闘争は熾烈を極めます。二人の対立が激化したある時のことです。この県警に小金沢の秘書がやってきます。」
「秘書?何をしに。」
「どうやら当時はまだ明るみになっとらんマルホン建設と仁熊会の関係を匂わすようなことを、当時の県警上層部に吹き込んどったようなんですわ。」
「お前らはその時点でそのことに気づいていいなかったのか。」
「はい。我々がマルホン建設と仁熊会のことを調べ始めたのはこのリークがあったからです。」
「調べてどうした。」
「いま理事官に言ったようなことがぼろぼろ出てきました。」
「だが、それだけでは立件できない。」
「そうです。そこでガサを入れようとしたんです。しかし…。」
「しかし?」
「令状の請求時点でそれは握りつぶされました。」
「なぜ。」
「本多の上層部買収です。」
「何…。」
「理事官。当時のウチの本部長は誰だと思います。」
「…知らん…。」
「石田長官ですよ。」
「まさか…。」
「そのまさかなんですよ理事官。」
「警察庁長官、石田利三(トシゾウ)か…。」
松永は肩の力を落とした。そして手にしていたサインペンをそっとテーブルの上に置いて、椅子に座った。
「官僚との対決姿勢を打ち出した小金沢よりも、調整型の本多のほうが与し易かったんでしょう。小金沢からの働きかけにも関わらずウチは本多を取ります。ほんで臭いものに蓋をするわけです。」
松永は頭を抱えた。
「本多を狙ったスキャンダル事件は発覚することはなくなりました。ほんで形勢は本多の方に傾きます。党内の保守派の意見を取りまとめて党内基盤を固め、あいつは次なる一手を撃ちます。」
「検察上層部も取り込んで公共事業口利き事件をでっち上げる。」
「ご明察です。ありもしないことを検察リークという形で大々的にマスコミに報じさせるわけです。このニュースは一時期世の中を騒がせました。本多はいろいろやったんでしょう。今は退官していますが、前の検事総長も本多の息がかかっとると噂されとりましたからね。結果、小金沢の権威は失墜します。奴は民政党から半分追い出されるように離党。以前から親交があった野党と合流し、政友党を結成するわけです。本多のスキャンダルは司法関係のグリップを聞かせとるから明るみにはならん。しかし小金沢はグリップがきかんため、現在も公判中ですわ。」
「警察も検察も本多とずぶずぶってわけか。」
「検察に関しては畑が違いますんで、私はよくわかりませんが、少なくともウチに関してはマルホン建設と仁熊会、そして金沢銀行の関係は歴代上層部で秘匿事項として引き継がれとります。」
「引き継がれているからこそ、そこに手を入れようとした一色の捜査請求をもみ消した。」
「理事官。さっき北署で言ったように、私には一色の捜査請求をもみ消した当事者はわかりかねます。しかしこれだけは分かるんですよ。県警上層部と察庁上層部が何かを寄って集ってもみ消しとるってことはね。長い間ここにおったら、それぐらいのことは調べんでも空気でわかるようになりますわ。」
「なるほど。よくわかった。」
松永は立ち上がって部屋の奥に続く扉を開いた。
「おい。こういうことだそうだ。」
部屋の奥からヘッドフォンをつけたままの男が二名現れた。突然の彼らの登場に十河は驚きを隠せない表情である。
「あ…」
「ということは俺らが聞かされていた情報はどうやら本当のようだな。」
容姿端麗な男はつけていたそれを外し、松永の方を見て口を開いた。
「そのようだ。」
「しかし、お前も役者だな。」
「何が。」
「お前、上層部からの指示で捜査本部の指揮をとってるんだろう。」
「宇都宮だけならいざしらず、石田長官まで絡んでるとは思わなかったよ。」
突然繰り広げられる男三人の様子に唖然としていた十河は、なんとか口を開いて言葉を発した。
「理事官…これは一体…。」
「ああ、十河。言っとくがおれは理事官でも何でもねぇ。」
「はい?」
「監察だ。」
「え…。」
「国家公安委員会特務監察専任担当官。松永秀夫だ。」
「何ですって…。」
「この二人は東京地検特捜部機密捜査班の人間だ。」
直江は松永の方を見て何でそんな事を十河に話す必要があると詰め寄ったが、本人を前にしてお互いが言い争うのは良くないとの高山の諌めを受けて、襟を正して十河と向き合った。
「こんな紹介を受けてしまっては機密も何もあったもんじゃありませんが、よろしくお願いします。直江といいます。」
「同じく高山です。」
「今聞かせてもらった話の続きは
Informations
- Émission
- Publiée6 mai 2020 à 15:00 UTC
- Durée18 min
- ClassificationTous publics