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「一色が死んでるよ。」
「え…。」
「見てみろよ。佐竹。」
「な、何を馬鹿なことを…。」
「見てみろよ〓︎佐竹〓︎そこを掘ってみろ〓︎」
佐竹は村上が指す場所へゆっくりと足を進めた。うっそうと茂る枯れ草を手と足を使って掻き分けて歩く。15歩ほど進んだところで、枯れ草がなくなっている箇所に出た。彼はライトアップされる内灘大橋からのわずかな灯りを頼りに、その地面を注視した。地面は周囲のものとは色が異なり、最近掘り起こされ再び土が被せられた様子が明らかに認められる。
「ま、まさか…。」
彼はその場にしゃがみ、被せられている土を手で掘り起こそうとした。しかしそれはしっかりと踏み固められ、寒さにかじかむ手を持ってでは難しい。何か硬いものが必要だ。佐竹はとっさに懐から折りたたみ式の携帯電話を取り出し、それを開いてスコップがわりに土を掘り起こした。夢中だった。何度か携帯で地面を掘り、そこが柔らかくなったのを見計らって両手で土を掻き分ける。その時、人の手のようなものが目に入った。
「うわっ〓︎」
佐竹は腰を抜かした。
「あ、あ、ああ…。」
後退りをするも、土の中から人の手が見えるという奇異な光景に何か惹きつけられたのか、佐竹はゆっくりとそれに近づいて、再びその土を除け始めた。手の甲しか見えなかったものが、指が明らかになった。どうやらこれはスーツにを身にまとっている。佐竹は目の前の人間に触れないように注意深く周囲の土を除けた。そして肩が見え、首元が露わになった時、佐竹は手を止めた。大きく息を吸い込んで吐き出す。彼は意を決して顔が埋まっていると思われる周囲の土を退かした。口元が見えた。彼は暗闇の中で目を凝らした。
「一色…。」
佐竹の目には右口元の黒子が映っていた。一色の顔の最大の特徴である。彼はここで手を止めた。これ以上変わり果てた一色の顔は見たくない。
「おーい。佐竹ぇ。いたかぁ。」
佐竹は冷たくなった一色の手を握った。その握った手の甲にポツリと滴が落ちた。佐竹の目からは涙が溢れ出てきていた。握るその手は次第に震え出す。彼は一色の手をそっと置いて拳を握って立ち上がった。
「まぁこういうことだ。佐竹。」
「村上…。これか、お前が話したかったことは…。」
「そうだ。」
「俺にこんなこと話してどうする気だ〓︎」
村上は真っ暗な空を見上げて、白い吐息を吐き出した。
「お前にも分かって欲しかったんだよ。」
「は?」
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「え?もう一度お願いします。」
「塩島は残留孤児なんだ。」
「残留孤児?」
片倉と古田、そして松永は内灘大橋の袂に駐車してある、誰もいない佐竹の車のそばで朝倉から入った無線に聞き入っていた。
「ああ、村上の政治信条のひとつに、この残留孤児問題の解決というものがあってな。あいつは中国残留孤児ネットワークの幹事も務めている。残留孤児というものはその大半が壮年期になって日本に帰って来た者ばかり。幼少期を中国で過ごしているため、ろくに日本語を習得できない。だからもちろん仕事もできず、その大半が生活保護やボランティアの寄付で生活をしている。だがそういう環境の中でもなんとか這い上がろうと努力する人間もあり、村上は特にそれらの者を私財を使ってでも支援していたようだ。」
「その村上の支援対象者のほとりが塩島だったってことですか。」
「そうだ。村上と塩島との接点はあいつが本多の秘書をやり始めた13年前からだ。その時塩島は57。当時は日本語もろくに話せず熨子町で生活保護を受けてほそぼそと生活していた。村上と出会い、あいつの献身的な支えもあってなんとか日本語を習得。いままで日本人でありながら日本語を話すことができず、しかもろくに働くこともできずに、常に世間から後ろめたさを感じていた。しかし日本語を習得し中国語会話教室などのボランティア活動を通して、地域住民と接点を持ち、ようやく日本に溶け込むことができた。70という高齢にも関わらず、この時期には近所の人間とスキーに行ったりできるまでになった。」
「それも全て村上の支えによるもの。」
「そうだ。塩島がゲンを拒んでいたのはこういった村上への長年にわたる義理があったからだそうだ。」
朝倉から塩島による証言の内容を一通り聞かされた三人は眼下の河北潟放水路の辺りにいる、村上の姿を眺めた。
「ということは…村上は、鍋島とも…。」
古田は呟いた。
「警備班現着。」
河北潟放水路の上からこちらに向かって明かりが3度明滅した。松永はその様子を確認し、警備班に指示を出した。
「よし無線を岡田にも渡せ。」
「了解。」
「…こちら岡田。」
「どうだ、何か聞こえたか。」
「はい…。」
「どうした岡田。何かあったか。」
「…理事官…。そこから見えますか…。」
「は?何だ。何のことだ。」
「佐竹の側を見てください…。」
松永は目を凝らした。彼の傍らには黒い穴のようなものがある。彼は手にしていた双眼鏡を覗き込みそこを見た。
「え?」
「どうした。何か見えるのか。」
「…マンジュウ。」
「何っ?」
片倉と古田も松永と同じ先を双眼鏡を使って見た。
「村上曰く、あのマンジュウは一色のようです…。」
この岡田の言葉に3人は戦慄した。古田は双眼鏡の倍率をあげ、その遺体の特徴を掴もうとした。しかし明かりが足りない。古田は全神経を視覚に集中させ、それを穴が空くほど見つめた。手のようなものが見えた。そこから腕、肩と追って首筋、そして口元あたりまでなんとか見えた。
「黒子…。」
「なにっ。」
「右口元の黒子が見える。」
松永は双眼鏡を外し、肩を落とした。
「やはりか…。」
「やはり?」
「おい岡田、これはどういうことだ。」
片倉が岡田に尋ねる。
「私にもよくわかりません。村上が言うには何度も警告を発したにも関わらず、一色の追求の手は緩まなかった。だから婚約者を穴山と井上にまわさせた。それでも一色は変わらないので話し合いを試みたがダメだった。だから殺した。」
「な、なに…。」
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정보
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- 발행일2020년 8월 12일 오후 3:00 UTC
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