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Ep.634 NBA中国×アリババクラウド──AIで“観る”を作り替える(2025年10月16日配信)

グッと肩の力を抜いて聞いてください。現地時間2025年10月9日、NBA Chinaとアリババクラウドがマカオで複数年の包括提携を発表しました。アリババクラウドはNBA中国の「公式クラウド&AIパートナー」となり、ライブ視聴やイベント連動の体験をAIで作り替えていく――そんな宣言です。専用のQwenベースAIモデルをNBA中国のデジタル資産でファインチューニングし、アプリ上でリアルタイムのハイライトや歴史データ、選手インサイト、トレンド解説を届ける構想が示されました。発表の壇上にはアリババ会長でネッツのオーナーでもあるジョー・ツァイ氏、NBAのマーク・テイタム副コミッショナーが並び、テクノロジーがファンとゲームを結び直す時代の到来を印象づけました。

お披露目の舞台は、6年ぶりの開催となった「NBA China Games 2025」。10月10日(金)と12日(日)にサンズとネッツのプレシーズン2連戦がマカオのヴェネチアン・アリーナで行われ、初戦はサンズ、再戦はネッツが勝利。中国におけるNBAの“現場復帰”を象徴する週末になりました。

テック面での見どころは、アリババのAIが仕掛ける「Real-Time 360 Replay」。プレー中の選手位置を追跡し、高品質フレームを合成して“球体視点”のハイライトを生成します。会場のファンはもちろん、配信やイベント会場「NBA House」でも、AIで自分の声色を学習させた実況クリップや、NBAテーマの生成アバターづくりといった体験が並びました。単なる映像処理にとどまらず、“自分ごと化”する演出までAIが肩代わりするのが今回のカラーです。

運用の裏側も大きく変わります。NBA中国のアプリ、公式サイト、ミニプログラムなど“デジタルの玄関口”はアリババクラウドのインフラ上へ。さらにクォークや通義APPといったコンシューマー向けAIアプリも公式マーケティングパートナーに加わり、リーチと反応速度を一段引き上げます。これにより“試合の外側”――ニュース、ハイライト、グッズ、イベント――までAIが一気通貫で最適化される下地が整います。

ビジネスの目線で言えば、この提携は“復路便”の意味も持ちます。2019年以降の関係悪化を経て、NBAは今年マカオ開催を足がかりに中国市場と本格的に関係を再構築中。テクノロジーでファン体験を厚くすることで、政治を越えた“観る理由”を積み上げる──そんな戦略の現実解としても読めます。

最後に、現場の温度です。初戦・再戦ともに会場は早朝キックオフながら熱気十分。スターやレジェンドの来場も話題を呼び、ネット上のハイライト配信は早速大きな波及を見せました。AIが即時に“語り”、クラウドが“届ける”。コートとファンの距離がまた一歩、短くなった週末だったと思います。