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Ep.639 Starship、連続成功──11回目の飛行試験が示した「回収」へのロードマップ(2025年10月16日配信)

テキサス州スターべースから打ち上げられたStarshipの11回目の飛行試験は、ブースターのメキシコ湾着水と上段機のインド洋着水を含む主要目標をクリアし、前回に続く“連続成功”を達成しました。打上げ後の分離、降下制御、遠地点通過後の誘導まですべて計画に沿って実施され、SpaceXは「次の大型アップグレード機への橋渡し」と位置づけています。

今回の試験は、ヒートシールドの挙動評価や上段でのエンジン再点火、バンキングによる姿勢制御など、将来の帰還・回収を見据えた運用検証が主眼でした。上段は半周飛行ののちインド洋へ、ブースターは分離後にメキシコ湾へソフトに着水。衛星運用を模したダミーのStarlinkペイロード放出も行われ、周回ミッションへ向けた一連の手順を重ねています。

このフライトで現行バージョンの区切りがつき、次は「回収と再利用」を本格に据えたアップグレード型へ移行すると伝えられています。SpaceXは“上段を将来は発射場に戻す”ことを想定した運用変更を公表しており、年内〜来年にかけて燃料補給試験や機体拡張を段階的に進める計画です。

国家プロジェクトへの波及も大きい。NASAはアルテミス計画で月周回から月面までの“最後の区間”をStarshipに担わせるため、着陸船版と補給技術の成熟を待っています。連続成功は日程面の不確実性を和らげる材料であり、並行して進む軌道上補給や熱防護の成熟が次のクリティカルパスになります。

民間宇宙の視点では、超大型・完全再使用ロケットの安定運用に向けて“精密誘導→再点火→熱防護→着水/着地”のチェックリストをひとつずつ潰すフェーズに入りました。今回の手順消化は、コスト構造を根底から変える「回収のふつう化」への現実的な階段を一段上がったことを意味します。現場の熱狂に負けず、次のアップグレードでどこまで回収率とターンアラウンドを詰められるかが、巨大輸送体系の競争力を左右することになるでしょう。