
“Heretic” by Hakushu KITAHARA ( Unabridged ) 北原白秋『邪宗門』(全) (14)
Part 14
暮春
ひりあ、ひすりあ。
しゆツ、しゆツ……
なやまし、河岸の日のゆふべ、
日の光。
ひりあ、ひすりあ。
しゆツ、しゆツ……
眼科の窓の磨硝子、しどろもどろの
白楊の温き吐息にくわとばかり、
ものあたたかに、くるほしく、やはく、まぶしく、
蒸し淀む夕日の光。
黄のほめき。
ひりあ、ひすりあ。
しゆツ、しゆツ……
なやまし、またも
いづこにか、
なやまし、あはれ、
音も妙に
紅き嘴ある小鳥らのゆるきさへづり。
ひりあ、ひすりあ。
しゆツ、しゆツ……
はた、大河の饐え濁る、河岸のまぢかを
ぎちぎちと病ましげにとろろぎめぐる
灰色黄ばむ小蒸汽の温るく、まぶしく、
またゆるくとろぎ噴く湯気
いま懈ゆく、
また絶えず。
ひりあ、ひすりあ。
しゆツ、しゆツ……
いま病院の裏庭に、煉瓦のもとに、
白楊のしどろもどろの香のかげに、
窓の硝子に、
まじまじと日向求むる病人は目も悩ましく
見ぞ夢む、暮春の空と、もののねと、
水と、にほひと。
ひりあ、ひすりあ。
しゆツ、しゆツ……
なやまし、ただにやはらかに、くらく、まぶしく、
また懈ゆく。
ひりあ、ひすりあ。
しゆツ、しゆツ……
四十一年三月
噴水の印象
噴水のゆるきしたたり。――
霧しぶく苑の奥、夕日の光、
水盤の黄なるさざめき、
なべて、いま
ものあまき嗟嘆の色。
噴水の病めるしたたり。――
いづこにか病児啼き、ゆめはしたたる。
そこここに接吻の音。
空は、はた、
暮れかかる夏のわななき。
噴水の甘きしたたり。――
そがもとに痍つける女神の瞳。
はた、赤き眩暈の中、
冷み入る
銀の節、雲のとどろき。
噴水の暮るるしたたり。――
くわとぞ蒸す日のおびえ、晩夏のさけび、
濡れ黄ばむ憂鬱症のゆめ
青む、あな
しとしとと夢はしたたる。
四十一年七月
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- تاريخ النشر٨ نوفمبر ٢٠٢٤ في ٣:٠٠ م UTC
- الموسم٥