市場の風を読む

モルガン・スタンレーが配信する金融ポッドキャスト「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)では、マーケットに影響を与える様々な事象について当社のソートリーダーによる考察をお届けします。

  1. Oct 2

    株式と債券の緊張関係

    弊社債券リサーチ・グローバル責任者のアンドリュー・シーツが、金利上昇が株式のバリュエーション、企業利益、投資家の投資意欲にとって何を意味し得るかを解説します。 このエピソードを英語で聴く。 トランスクリプト 「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。 本日のエピソードでは、弊社債券リサーチ・グローバル責任者のアンドリュー・シーツが、債券利回りが上昇する中での株式の底堅さについてお話します。 このエピソードは10月2日にロンドンで収録されたものです。 このエピソードを英語で聴くには、エピソードの説明欄にあるリンクをクリックしてください。 指標となる10年米国債利回りは今年、およそ100ベーシスポイント上昇しました。同時に、世界の株式は13%程度上昇しています。そして、この2つの事実の間には居心地の悪い緊張関係があります。 そもそも、債券利回りの上昇は、他の投資先でより高いリターンを得る選択肢を投資家に与えるとともに、将来の企業利益の現在価値も低下させるため、理論上は株価を押し下げるはずです。 しかし、ここには見落とされがちな点があります。 そのバリュエーション理論には、実際には2つの変動要素があります。ここで弊社が言っているのは、配当割引モデル、またはゴードン成長モデルと呼ばれるものであり、企業の現在価値は、配当の価値を、要求収益率と成長率の差で割ったものとなります。 金利上昇によって押し上げられる要求収益率が高いほど、株式のバリュエーションにはマイナスとなります。分母が大きくなるためです。しかし、成長率の上昇は逆方向に作用します。分母が小さくなり、企業価値が高まるのです。 これは直感的に理解できるはずです。企業がより高いリターンのハードルを満たさなければならない場合、その現在価値は低下します。他の条件がすべて同じならば、企業の成長が速いほど、その価値は高くなります。そして弊社は、この点が現在の市場で実際に起きていることを説明するのに大きく役立つと考えます。企業利益が急速に増加しているためです。 過去1年間で、S&P 500指数構成企業の利益はおよそ30%増加しており、企業の利益成長率の中央値も依然として10%台半ばです。欧州、アジア、新興国市場の成長率も、歴史的に見て力強い水準にあります。 実際、1月1日の時点で、S&P 500が13%程度上昇すると同時に、米国債利回りがおよそ100ベーシスポイント上昇すると告げられていたならば、弊社はおそらく、株式は債券と比べてより割高に見えるだろうと、それなりの確信をもって答えていたはずです。 しかし、実際にはそうなっていません。利回りが上昇する中、株式市場のバリュエーションである株価収益率(PER)は大幅に低下しました。それでも、利益がそれをはるかに上回るペースで増加したため、株価はなお上昇しています。また、いわゆる株式リスクプレミアム、すなわち株式益回りと債券利回りの差は、年初来でかなり安定しています。 さて、利回り上昇が株式市場に悪影響を及ぼし得る経路はもう1つあります。人々が単純に株式を売却し、より利回りの高い債券を購入する可能性です。しかし今のところ、そうした動きを示す証拠は見られていません。弊社が追跡している資金フローは引き続き、株式と債券の双方に資金が流入していることを示しています。 また、2つの市場は日々同じ方向に動いています。両市場は正の相関を示しており、これは人々が一方から他方へ資金を移している場合に予想される結果ではありません。 この議論において、企業が発言権を持つ興味深い側面もあります。投資家は日々市場を見て、利回りが購入したいほど十分に高いかどうかを判断します。しかし企業は同じ利回りを見て、「我々が売りたいと思うほど十分に低いか」と問います。これは、特にAIインフラ整備の資金を調達している企業、すなわち多額のAI投資を行う必要がある大手テクノロジー企業に当てはまります。そうした企業の多くは、利回りが上昇した現在でも、この水準は起債に魅力的であり、例えば株式の追加発行よりも有利だと判断しています。 株式と債券の間、または実際にはあらゆる資産クラス間の長期的なバリュエーションを議論する際に、常に念頭に置くべきもう1つの重要な要因は、バリュエーションがゆっくりと作用する力であるという点です。バリュエーションは、今後6カ月、さらには12カ月の動きを予測するうえで、多くの場合、それほど有効ではありません。実際、株式市場の益回り、すなわちPERの逆数と、債券市場の利回りとの差を考えてみると、その差が翌月の株式と債券のリターンの差を説明する割合はおよそ10%にすぎません。 もっとも、バリュエーションは、時間軸を長くするほど有効性が高まります。そこで、その時間軸を今後3年間に延ばすと、債券と株式の間のバリュエーション格差は、3年間の結果のおよそ半分を説明します。 市場は、四半期に一度解かれる方程式ではありません。市場とは、将来を巡る継続的な議論です。そして成長が力強いとき、投資家は成長とその将来の潜在力をより好意的に評価しようとします。 弊社は、この点が、米国債利回りが5%を大きく上回っているにもかかわらず株式市場が底堅い理由を説明するうえで大きく役立つと考えます。しかし同時に、求められるハードルも上がります。 利回りの上昇は、利益が期待を下回る余地を単純に小さくします。そうした利益は、急速に成長し続ける必要があります。 いつもながら、お時間を割いていただきありがとうございます。「市場の風を読む」Thoughts on the Marketが有用だと感じられた場合は、普段利用している配信先でレビューを投稿し、弊社にお知らせください。また本日、友人や同僚にも弊社の番組をご紹介ください。

    株式と債券の緊張関係
  2. Sep 30

    中間選挙を前に注目すべき4つの市場シグナル

    投資家が米国の中間選挙に目を向けるなか、最大の焦点は、何が変わり得るのかという点です。弊社の米国公共政策リサーチ責任者、アリアナ・サルバトーレが、注目すべきシグナルについて解説します。 このエピソードを英語で聴く。 トランスクリプト  「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。 本日のエピソードでは、弊社の米国公共政策リサーチ責任者、アリアナ・サルバトーレが、来たる2026年の中間選挙について解説します。 このエピソードは9月30日にニューヨークにて収録されたものです。 英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。 選挙が徐々に近づくなか、投資家からは、どのような影響が生じ得るのかという質問が増えています。弊社はこのほど、見通しを詳しく分析したレポートを発表し、そこから4つの重要なポイントを導き出しました。 第1に、中間選挙によって、行政府主導の政策課題の根幹が変わる可能性は低いとみています。弊社が以前から指摘しているように、2025年初め以降、市場が直面してきた政策の不確実性の多くは、実際には議会ではなく行政府から生じています。 関税、通商政策、規制緩和、移民政策、輸出規制はいずれも、選挙後も引き続きホワイトハウスの権限の下にある政策要因です。そのため、たとえ議会の多数派が変わっても、こうした政策課題がそのまま消えると投資家が考えるべきではないと弊社はみています。一方、議会がより大きな役割を果たすのは財政政策です。ただし、そこでも想定される結果の幅は比較的限られています。 選挙結果によって主に違いが出るのは、予定されている補足的栄養支援プログラムのSNAPとメディケイドの削減時期、国防支出、そして今後の政府資金の確保や債務上限をめぐる交渉がどのように進展するか、という点にあります。 以上が第1のポイントです。中間選挙によって統治の進め方は変わり得ますが、行政府の政策課題の大きな方向性までは、おそらく変わりません。つまり、少なくとも今お話しした政策分野では、不確実性の高い状態が続く可能性があります。 第2のポイントですが、中間選挙を2028年の大統領選挙に直結するシグナルとして捉えることには、慎重であるべきです。過去を振り返ると、中間選挙で中心となった争点が、必ずしも次の大統領選挙でも中心の論点になるとは限りません。 1994年以降の6回の中間選挙から大統領選挙までのサイクルを見ると、最重要とされた争点は、そのうち5回で変わっています。また、大統領選挙で最終的に決定的となった争点が、中間選挙の時点ですでに表面化していたのは、6回のうち2回にすぎません。ただし、選挙からは、政策をめぐる対立軸がどこで形成され始めているかを読み取ることができます。 この観点から、弊社は特に4つの議論に注目しています。財政と社会保障をめぐる議論、個人課税をめぐる状況、データセンター開発への規制、そしてヘルスケアです。弊社の見方では、これらの論点から得られる有用なシグナルは、単にどの政党がより多くの議席を獲得するかではありません。重要なのは、これらの政策のどのような形が、有権者や各政党内で支持を集め始めているかです。 ここから第3のポイントにつながります。AIは中間選挙の影響を受け得る分野の一つですが、その影響は幅広いAI規制というより、主にデータセンター政策を通じて表れるとみています。 この2つの論点は分けて考えることが重要です。まずデータセンターについて、弊社は中間選挙が変化のきっかけになるとみています。なぜなら、最も重要な政策手段の多くが州・地方レベルにあるからです。具体的には、許認可、立地、電力網への接続、大口需要家向け電気料金、税制優遇措置などです。つまり、議会そのものよりも、州知事、公益事業委員会、州議会のほうが、開発のペースや立地に対して、実際にはるかに直接的な影響を及ぼし得るということです。 こうした観点から、弊社の基本シナリオは引き続き「条件付きの設備拡大」です。つまり、想定される水準のAI設備投資は継続すると考えられますが、今後は、電力コスト、インフラ、水資源、地域社会への影響といった懸念に開発事業者が対応できる地域へ、投資が一段と集中していく可能性が高いということです。 一方、より広範なAI安全規制は事情が異なります。こちらについては、政権や議会の構成は実際にはさほど重要ではないと弊社はみています。大きな注目を集める出来事や事故がない限り、近い将来に包括的な連邦法が成立する可能性はかなり低いと考えられるからです。したがって、議会をどの党が掌握するかが、必ずしも主要な決定要因になるわけではありません。 最後に第4のポイントですが、市場への影響は、マクロ面よりもミクロ面で多く表れるとみています。株式市場では、議会多数派の構成と結束の度合いが、個別セクターに影響する可能性があります。たとえば、予定されているSNAPやメディケイドの削減について、変更を交渉できる議会であれば、消費関連企業やヘルスケア企業に影響が及ぶ可能性があります。 AI関連セクターも、データセンター規制をめぐる見通しや投資家心理の変化に反応する可能性があります。金利については、選挙結果が、予想される財政赤字を大きく変えるような財政政策につながるかどうかが焦点です。 財政調整措置を今後も政策実現の手段として活用できる余地が残るのは、共和党が上下両院の多数派を維持する場合のみです。一方、ねじれ議会となれば、新たな法案を成立させる余地は狭まり、予算措置や債務上限をめぐる交渉の重要性が一段と高まるでしょう。また、ドルについては、弊社のストラテジストは、選挙そのものよりも、主に米国債利回りや米国の成長見通しを通じて影響が波及するとみています。 結論として、2026年の中間選挙によって、政策環境やマクロ経済の状況が全面的に変わる可能性は低いと考えています。ただし、選挙に至るまでの過程から得られる重要な示唆は数多くあるでしょう。 最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです

    中間選挙を前に注目すべき4つの市場シグナル
  3. Sep 29

    中国の製造業高度化を支える12兆ドルの投資

    弊社の中国インダストリアルズ・アナリスト、シェン・ジョンが、AI、ロボティクス、そして大規模な投資サイクルによって、中国の製造基盤と、グローバル・サプライチェーンにおける中国の役割がどのように変わり得るのかを解説します。 このエピソードを英語で聴く。 トランスクリプト  「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。 今回は、弊社の中国インダストリアルズ・アナリスト、シェン・ジョンが登場します。AIと自動化が中国の工場をどのように変えつつあるのか、そしてそれが世界の製造業にとって何を意味し得るのかをお話しします。 このエピソードは9月29日に香港にて収録されたものです。 英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。 何十年もの間、「メイド・イン・チャイナ」と言えば、規模、スピード、そして低コスト製造の代名詞でした。しかし今、中国の製造業は、より野心的な方向へと転換しつつあります。テクノロジー、生産性、そして産業のノウハウを活用し、何を作るかだけでなく、どのように作るかまで変えようとしているのです。 弊社は、この移行を「インダストリー5.0」と呼んでいます。インダストリー4.0は、機械と機械をつなぎ合わせ、生産をデジタル化する取り組みでした。インダストリー5.0はこれをさらに一歩進め、AIを活用して、工場の生産計画、品質管理、設備保全の方法を改善しようというものです。 中国は、すでに圧倒的な規模の製造基盤を有しています。世界の製造業付加価値のおよそ28%を占め、国連が定義する666の産業小分類をすべて網羅しています。すでに基礎レベルのスマート工場が3万カ所以上あり、ネットワークにつながった産業機器は1億台を超えています。 こうした産業基盤は、ロボティクスにおいても中国に強固な土台をもたらします。従来の産業用ロボットは、あらかじめ設定された特定の作業を繰り返すのが一般的です。一方、身体性AIを導入すれば、ソフトウェアやモデルの更新を通じて新たな能力を獲得できるようになり、機械の柔軟性が高まる可能性があります。つまり、一部の肉体労働を、ソフトウェアによって機能を更新できる資本へと転換できる可能性があるのです。 そして、それに関連する数字を見ていくと、これがどれほど急速に拡大し得るかが分かります。中国のロボット年間販売台数は、2025年の約800万台から、2030年には2,900万台、2035年には7,600万台に増える可能性があります。わずか10年間で、年間販売台数がおよそ9倍になる計算です。 これほど大規模な製造基盤全体にロボティクスとAIを広げるには、多額の資本が必要になります。弊社では、インダストリー5.0によって、2026年から2035年にかけて、中国で約12兆ドルの追加的な産業投資がなされる可能性があると推計しています。このうち約5兆5,000億ドルは、ロボティクス、スマート機器、ソフトウェアなどの工場高度化に向けられ、約6兆ドルは新たな生産能力の整備に向けられる見通しです。 ただし、この投資サイクルは段階的に進む可能性が高そうです。産業設備投資の伸び率は、2026年と2027年には年率約4~5%となり、その後、余剰生産能力が吸収され、技術上のボトルネックが緩和し、工場全体でAIの導入が広がるにつれて、2028年以降は6~7%程度へ加速すると弊社は予想しています。 こうした投資が生産性の向上につながれば、経済への影響は大きなものになり得ます。2035年までに、中国の産業部門の利益率は、現在のおよそ5%から8%へ拡大する可能性があります。インダストリー5.0によって、中国の潜在GDPの水準は約3.5%押し上げられ、高齢化による下押し圧力の一部を和らげることが期待されます。また、世界の製造業付加価値に占める中国の比率も、約28%から30%へ上昇する可能性があるでしょう。 そして、こうした変化は中国国内にはとどまりません。最終組立の拠点は別の場所へ移すことができますが、それを支えるサプライヤーのネットワーク、機械、生産ノウハウを再現するのははるかに困難です。弊社の推計では、中国から米国への輸出のうち、容易に代替できるのは約40%にすぎません。 つまり、中国の役割は、完成品の輸出にとどまらず、ほかの国で完成品を作るために使われる設備、部品、産業システムを供給することへと、ますます広がっていく可能性があるのです。これは、「メイド・イン・チャイナ」から「メイド・バイ・チャイナ」への移行にほかなりません。 最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。

    中国の製造業高度化を支える12兆ドルの投資
  4. Sep 28

    株式市場のすそ野の悪化

    2026年の株式市場の上昇をけん引する企業の数が、以前よりも少なくなっています。弊社最高投資責任者兼米国チーフ株式ストラテジストのマイク・ウィルソンが、年末に向かうなかで上昇相場のすそ野が狭まっていることを、投資家はどう受け止めるべきか解説します。 このエピソードを英語で聴く。 トランスクリプト  「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。 今回は、弊社の最高投資責任者兼米国チーフ株式ストラテジストであるマイク・ウィルソンが、株式市場のすそ野の悪化について解説します。 このエピソードは9月28日にニューヨークにて収録されたものです。 英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。 今年、株式市場は上昇しています。これは良いニュースです。ただ、この6週間は、どうしても気になる現象がひとつ見られました。今回の上昇相場を支える銘柄の数が、次第に減っているのです。 ラッセル3000指数の構成銘柄の半数以上が、6月につけた高値を少なくとも20%下回っています。また、S&P500指数の予想株価収益率は19倍にまで低下しており、年初来で最も低い水準に近づいています。その一方で、S&P500指数では構成銘柄の利益成長率の中央値が依然として10%台半ばにあり、業績予想の上方修正の動きも広がって今回のサイクルのピークに近づいています。 これは、市場が楽観に傾きすぎているということではありません。むしろ、エネルギーコストの上昇、金融引き締め姿勢を強めるFRB、AIによる事業環境の変化、投下資本利益率をめぐる懸念、そして地政学リスクを織り込むために、市場はすでに相当な調整を進めてきました。 先週のポッドキャストで申し上げたように、これは典型的な景気サイクル中盤の動きです。利益の伸びがバリュエーション低下の影響を吸収し、相場の主役が、景気サイクル初期に上昇した銘柄からクオリティ銘柄へと移りつつあります。 ローリング・リセッションの底から力強く相場をけん引してきた自動車、半導体、短期循環型の資本財といった業種が、最近では特に弱い分野となっています。 景気サイクルが成熟し、FRBの姿勢が市場にとって以前ほど追い風ではなくなると、こうしたことが起こりやすくなります。市場は高ベータ銘柄に高い評価を与えなくなります。そして、フリーキャッシュフロー、安定した利益率、事業運営の効率性、さらに業績予想がなお上方修正されている企業を評価し始めます。だからこそ弊社は、引き続き大型優良株を選好しています。なかでも、資産をあまり多く持たず、サービスを中心に提供し、手数料収入を基盤とする企業に注目しています。 とはいえ、まだ解消すべき問題が一つあります。夏の大半を通じて、原油価格と債券利回りが上昇するなかでも、市場のすそ野は良くなっていました。しかし、ジャクソンホール会議の後にこれが悪化に転じました。FRBのよりタカ派的な反応関数を市場が織り込み始めたのが、ちょうどこの時期にあたります。株価が200日移動平均線を上回るS&P500指数構成銘柄の割合は、およそ75%から50%未満へと低下しました。しかし指数そのものは、それよりもはるかに底堅く推移しました。 この乖離がいつまでも続くことはありません。市場のすそ野の広がりが指数の水準に追いつくか、あるいは指数が下落して市場のすそ野の広がりに近づくかのどちらかです。債券市場のボラティリティが早期に落ち着かなければ、その影響が株式市場のボラティリティにも波及し、S&P500指数が5~10%ほど下落する可能性があるでしょう。 率直に言えば、弊社はそうした下落を歓迎します。指数全体がついに調整するに至り、それによって水面下で数カ月続いてきた調整局面が終わることも多いためです。 FRBが先日、利上げ方向へ転換じたことに、大きな関心が集まっています。しかし、2年国債利回りはすでに、FRBの見通しが示唆する水準を上回っています。弊社には、債券市場が当面の展開についてタカ派に傾きすぎているように見えます。 それより大きな不確実性は、新しいFRB議長が流動性とバランスシートにどう向き合っていくかです。新議長は前任者たちよりもマネタリスト的な考え方を持っており、それが実務上何を意味するのかを、市場はまだ見極めようとしている最中です。 弊社では、金融環境が過度に引き締まれば、FRBは最終的に流動性を供給するとみています。ただ、市場はその前に、FRBが本当にそうするか否かを試そうとするかもしれません。注目すべきシグナルは、債券市場のボラティリティ、資金調達面のストレス、そして株式市場のボラティリティがそれに追随するかどうかです。こうした圧力が弱まれば、市場のすそ野の広がりが指数に追いつき、相場をさらに押し上げる可能性があります。圧力が緩和されなければ、指数が調整する余地もおそらく大きくなるでしょう。 投資家にとっては、もう一つ新たな前向きなテーマも生まれています。それは、AIの導入が、期待の段階から実践の段階へ移りつつあることです。AIの導入が進んでいる企業では、利益率と業績の傾向がより力強くなっていますが、市場のコンセンサス予想はまだ、そうした効果の多くが数年先には薄れると見込んでいます。 弊社では、その見方は保守的すぎると考えています。生産性の向上はすぐに消えるのではなく、積み重なっていくことが多いものです。利益の勢いは、AIを実現する側の企業からAIを導入する側の企業へと広がっています。一方で、AIを導入する側の企業のバリュエーションは調整し、より魅力的な水準になっています。こうした状況で後押しされるのは、両方を組み合わせるバーベル型の投資戦略です。つまり、利益の持続性によって割高な評価が正当化できる一部のAIを支える企業を保有しつつ、ファンダメンタルズの改善が市場予想にまだ十分織り込まれていないAI導入企業の保有を増やしていく、という考え方です。 まとめましょう。市場はリスクを無視しているわけではありません。それどころか、バリュエーションの低下、市場のすそ野の広がりの悪化、そして主役の大幅な交代を通じて、リスクを織り込んできています。解消されていないのは、底堅い指数と、それよりはるかに弱い平均的な銘柄との間にあるギャップなのです。 結論としては、株価指数が史上最高値へ一気に上昇する前に、おそらく市場のすそ野が改善し、指数水準もいったん下落する可能性が高いとみています。だからこそ弊社は、引き続き大型優良株をオーバーウェイトしたいと考えていますが、10月に相場が弱含む局面では、よりリスクの高い銘柄を買い増す方針です。 市場には、もう一度、不愉快な調整が必要なのかもしれません。ただ、それこそが年末に向けての、より力強い相場展開の土台になるかもしれないのです。今後も市場を読み解くヒントをお届けします。 最後までお聴きいただきありがとうございました。今回の内容が、皆さまにとって有益でお役に立つものであれば幸いです。よろしければ、レビューをお寄せいただき、ご感想をお聞かせください。また、「市場の風を読む」Thoughts on the Marketに価値を感じていただけましたら、ぜひご友人や同僚の方にも番組をご紹介ください。

    株式市場のすそ野の悪化
  5. Sep 23

    AIの安全性がもたらす意外な投資機会

    AIの安全性に関する要件が強化されれば、AI投資のペースが変わる可能性があります。アリアナ・サルバトーレが、そうした支出がなぜ縮小ではなく、より多くのコンピュートへ向かう可能性があるのかを掘り下げます。 このエピソードを英語で聴く。 トランスクリプト  市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。 本日のエピソードでは、弊社米国公共政策リサーチ責任者であるアリアナ・サルバトーレが、弊社グローバルリサーチ副責任者であるマイケル・ゼザスと対談しました。テーマはAIの安全性と規制です。これからお聞きいただくのは、その対談の抜粋です。 このエピソードは9月23日にニューヨークにて収録されたものです。 英語版のエピソード全編をお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。 弊社は先週、AIのフロンティアモデルの能力向上と、それに伴う安全上のリスクについてのレポートを発表しました。 これはここ数週間、注目を集めており、政府による規制が今後どのような道筋をたどるのかについて、数多くの質問をいただいています。 そこで今日は、マイクと私で、最近の新たな展開と、弊社が今後の方向性をどう見ているか、そして中間選挙がその道筋にどのような影響を及ぼし得るのかについてお話しします。 弊社は、今後の展開について、5つのシナリオがあると見ています。業界による自主規制を含むものもあれば、政府のより強い介入を見込むものもあります。ただ、そのいずれにおいても、先ほどお話ししたように、コンピュート支出とより広い設備投資の大きな追い風になると考えています。 その理由は、AI企業がより高度なセキュリティ監視インフラを組み込むにつれて、こうした支出は加速する一方だと思われるためです。大規模言語モデルの能力が非線形に高まるなかでは、なおさらです。同様に規制面でも、大規模で包括的なAI規制法案の成立を妨げる要因がいくつかあると見ています。 そうした法案が実現するには、大きく3つの主要な障害があると思われます。 1つ目は政治です。実際、大統領自身が何らかの大規模な規制には反対だと述べています。2つ目は手続きです。仕組み上、この種の規制の土台となる法的な受け皿が必要ですが、すぐに整備できるとは考えにくいでしょう。そして3つ目は前例です。 過去の例を見ると、通常、規制は何らかの注目度の高い出来事をきっかけに進みます。ですから、政府の反応に関する弊社の枠組みは、その出来事の注目度と、政策手段の利用可能性という2つがカギとなります。政策手段の利用可能性とは、政府がこの方向で活用できる手段をすでにどの程度持っているかです。 これが今後についての弊社の考えです。これは、政策対応の可能性が全くないという意味ではありません。ただ、今後数年にわたり、設備投資とコンピュート支出が増加するという弊社の見方を支えるものです。 弊社は、近いうちに包括的なAI規制当局が設けられるとは予想していません。重要なのは、オープンウェイトモデルに対する広範な規制も予想していないという点です。その理由は3つあります。まず、弊社の見たところ、米国は中国との間で管理された安定的な関係を維持したいと考えているためです。 弊社は米中首脳会談を巡る見通しについても書いています。これは微妙なバランスであり、今後も続く可能性が高いと見ています。そのため、オープンウェイトモデルを過度に制限すると、弊社が想定しているその均衡がやや崩れる可能性があります。これが1つ目の理由です。 2つ目の理由は普及です。弊社は、米政権がオープンウェイトモデルの広がりを望んでいると考えています。企業がオープンウェイトとクローズドウェイトを何らかの形で組み合わせて使っていることも分かっています。したがって、こうしたモデルを禁止することで導入が遅れるのであれば、それは政権の利益にはならないと考えています。 3つ目の理由は、純粋に実務上の問題です。このような制限の実施は非常に困難です。モデルウェイトがいったんオンラインで公開されると、それがどこの誰に渡るのかを厳密に統制するのは非常に難しくなります。 当然ながら、企業はそれらをダウンロードできるし、カスタマイズなどもできます。ですから、実施面でも非常に困難です。とはいえ、行政府が継続的に関与し、規制面で段階的な調整や変更を行うことはあり得ます。ただし、それは現在議会で見られる一部の提案ほど厳しいものにはならない可能性が高いでしょう。キルスイッチ法などは、基本的に、一定の基準を超えた場合に、企業が即座にAIを停止できることを義務付けるものです。 こうしたものが実現する可能性は低いと見ています。ただし、安全基準やガードレールの設定などは、政権による取り組みが近いうちに行われる可能性があるでしょう。 このため、弊社チームのテーマ別の推奨は維持されています。つまり、今までの話はすべてが設備投資とコンピュート供給への追い風になるという見方です。 その流れのなかで、弊社は引き続き、推論コンピュートのボトルネックに投資機会があると考えています。供給を上回る需要があるためです。こうした状況は、ほとんどの政策シナリオにかかわらず続くと見ています。 また、先ほど申し上げたように、サイバーセキュリティのリーダー企業にも投資機会があると考えています。オープンウェイトモデルの能力が大幅に高まるにつれて、支出が増加するためです。そして3つ目として、AI導入企業にも投資機会があると見ています。AIモデルはすでに大きな生産性向上をもたらす能力があり、その能力は今後も向上していくと思われます。 最後に触れておきたいのは、このポッドキャストではあまり取り上げませんでしたが、こうした対談では通常、AI主権や、米中間の制限についても話題にしています。 その観点では、米中間の技術移転規制の強化から悪影響を受けるエクスポージャーは避けるべきでしょう。各国政府がより積極的な役割を果たすようになり、その可能性は高まっていると思われます。そしてそれが、グローバル市場の二極化を促すと見ています。 最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。

    AIの安全性がもたらす意外な投資機会
  6. Sep 22

    各国中銀が再び利上げに動く理由

    インフレリスクが高まる中、各国中央銀行はタカ派姿勢を強めています。弊社グローバル・チーフ・エコノミスト兼マクロ・リサーチ責任者のセス・カーペンターが、これがFRB、ECB、日本銀行にとって何を意味するのかを解説します。 このエピソードを英語で聴く。 トランスクリプト  「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。 本日のエピソードでは、弊社グローバル・チーフ・エコノミスト兼マクロ・リサーチ責任者のセス・カーペンターが、各国中央銀行に見られる動きと、それによって弊社の見通しがどのように変化しているのかについてお話しします。 このエピソードは9月22日にニューヨークにて収録されたものです。 英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。 この2週間で、弊社のエコノミストは、FRB、ECB、日銀に関する見通しを修正し、予想利上げ回数を増やしました。 それぞれの経済が直面している課題は異なりますが、3つの中央銀行はいずれも、おおむね同じ結論にたどり着いています。世界経済にさまざまなショックが及ぶ中でも成長は驚くほど底堅く、エネルギー価格の上昇圧力が再び強まったことで、インフレが従来の想定よりも長引くリスクが高まっている、ということです。 最も分かりやすい例であり、弊社が今回最も大きく見通しを修正したのが、FRBです。 今年の大半の期間、弊社は実のところ、FRBが利上げをまったく行わない可能性もあると考えていました。しかし、今回9月のFOMC会合で実施された利上げに加えて、弊社では現在、12月と3月にさらに2回の利上げが行われると予想しています。これにより、最終到達点となる政策金利は4.25%から4.5%のレンジに引き上げられる見通しです。 ウォーシュ議長は、エネルギー価格や商品価格の上昇がインフレに及ぼす影響を強調してきましたが、私にとってより重要なシグナルは、政策が十分に引き締め的ではないという評価でした。 つまり弊社の見方では、FRBはインフレ見通しだけでなく、インフレ率を持続的に目標へ戻すためにどの程度の引き締めが必要なのかについても、再評価しているように見えます。 とはいえ、それでも弊社は今回の変化について、FRBの政策が根本的に転換したというよりは、政策の再調整に近いものと見ています。ですので、市場は、残された利上げ幅を、もしかすると、ほんの少し過大評価しているのかもしれません。 しかし、この変化には市場への明確かつ重要なインプリケーションがあります。 弊社の金利ストラテジストは、投資家が当面、追加引き締め予想を前倒しで織り込む一方で、成長が鈍化し始める前に、政策金利をどの程度長く引き締め的な水準に維持できるのかを、ますます疑問視するようになると予想しています。 ただ、より広く見れば、FRBはエネルギー主導のインフレ圧力にこれまでよりもやや敏感になっているようであり、それがドル高を見込む根拠を強めています。 ここ数カ月、エネルギー価格の上昇はユーロを支えてきました。投資家は、ECBがFRBよりも積極的に対応していると受け止めてきたためです。しかし、かつてのそうした非対称性は変わりつつあるのかもしれません。 そのため、弊社の為替ストラテジストは引き続きドル高を選好しており、とりわけ円に対してドルが強含むと見ています。 欧州も、FRBと同様のインフレ課題に直面しています。ただし、そのメカニズムは異なります。 天然ガスやその他のエネルギー価格が再び上昇したことで、弊社のエコノミストはインフレ見通しを大幅に引き上げ、その結果、12月にECBがもう一度利上げを行うとの見方を追加しました。 ただし、見通しを変えた要因はエネルギー価格そのものだけではない、という点を覚えておく必要があります。 ユーロ圏の経済活動も、弊社の予想を大きく上回る底堅さを示しています。そのため、小幅な追加引き締めが成長の腰を折るのではないかという懸念は和らいでいます。 これらを総合すると、ECBは、エネルギーコストの上昇がより広範なインフレ動向に波及するのを防ぐことに、ますます重点を置いていると言えます。 一方、日本は違って見えるかもしれませんが、根底にあるストーリーは驚くほど似ています。 何十年もの間、日銀にとっての課題はインフレを生み出すことでした。しかし現在、政策当局者は、インフレ率が目標を上回る可能性をますます懸念するようになっています。 先週の日銀の利上げを受けて、弊社では、日銀が12月に政策金利を1.5%に引き上げ、その後3月にはさらに1.75%程度まで引き上げると予想しています。 FRBやECBと同様に、日銀も、金融環境の引き締まりを予想以上にうまく吸収してきた経済と向き合っています。 もっとも、FRBやECBとは異なり、弊社のストラテジストは、市場が最終的な政策金利の到達点を織り込むうえで、積極的になり過ぎていると考えています。そのため、時間の経過とともに、予想が下方修正される余地があります。 その結果、日本の金利は緩やかな上昇を続ける可能性がある一方で、弊社の為替ストラテジストはなお、一時的なポジショニング要因が薄れれば、より広い意味で円安トレンドが現れると予想しています。 ここまでお話しした3つの中央銀行に共通しているのは、エネルギーショックがインフレをめぐる議論を変えた一方で、成長の底堅さが、政策をめぐる議論をさらに変えたという点です。 したがって投資家にとって、来年は年初に市場が想定していたよりも、政策金利が高く、ドル高の年になる可能性が高いでしょう。 最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。

    各国中銀が再び利上げに動く理由
  7. Sep 21

    市場の底堅さは楽観の表れではない

    弊社の最高投資責任者兼米国チーフ株式ストラテジストであるマイク・ウィルソンが、質の高い銘柄、力強い企業業績、株価モメンタムが、強気相場はなお続いているという自身の見方を裏付けている理由について解説します。 このエピソードを英語で聴く。 トランスクリプト  市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。 本日のエピソードでは、弊社最高投資責任者兼米国チーフ株式ストラテジストのマイク・ウィルソンが、現在進行している景気サイクル半ばへの移行についてお話しします。 このエピソードは9月21日にニューヨークにて収録されたものです。 英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。 S&P500は過去最高値に近い水準にあります。エネルギー価格が上昇し、2つの紛争が同時に起きており、AIの安全性を巡る懸念が再び大きく取り上げられているにもかかわらずです。一方で、各国中央銀行は金融引き締めを進めています。理論上では、投資家が不安を感じる理由は数多くあります。では、投資家は単に楽観に傾きすぎているのでしょうか。私はそうは考えていません。 ラッセル3000指数構成銘柄の40%超は6月以降、20%以上下落しています。一方、S&P500の予想PERは再び19倍まで低下しており、これは1年前よりも20%近く低い水準です。同時に、中央値で見た企業の利益成長率は15%前後で推移しており、業績予想の修正の広がりも、このサイクルの高水準に近いところまで戻っています。力強い利益成長と同時にバリュエーションが低下していることは、楽観の表れではありません。これは典型的な景気サイクル半ばへの移行そのものです。 この違いは重要です。景気サイクル半ばの相場は、ほとんどの投資家にとって扱いにくいものになりがちだからです。指数は底堅さを保つ一方で、市場の多くの部分は調整することがあります。利益が強さを維持する一方で、バリュエーションは低下することがあります。そして、強気相場が終わらなくても、主導役は入れ替わることがあるのです。 先週のFRB会合は、まさにこの枠組みに当てはまります。25ベーシスポイントの利上げはおおむね織り込み済みでしたので、実際に重要だったのは、ウォーシュ議長がインフレと戦うという自身のコミットメントを実行する意思を示したことでした。直近のコア・インフレ指標は予想より強めでしたが、内訳は一様に予想以上のインフレ加速を示していたわけではありません。 上振れの一部は少数のカテゴリーに集中しており、住居費はなお軟調でした。また、関税転嫁の影響も薄れつつあるように見えます。これにより、FRBは、2022年型の引き締め局面に再び向かっていると不本意ながら投資家に想定させることなく、行動する余地を得たと言えます。 私の見方では、今回の利上げは信認を高める可能性があります。投資家が、FRBはインフレを抑え込むのに十分早い段階で行動していると考えれば、政策金利の引き上げは、長期の資金調達コストを自動的に押し上げるのではなく、不確実性やタームプレミアムを低下させる可能性があります。 しかし、私が懸念しているのは利上げそのものではありません。利益が力強さを保つなら、今後1年で数回追加利上げが行われたとしても、この強気相場が終わる可能性は低いと考えています。より大きな不確実要因は、ウォーシュ氏が率いるFRBが、バランスシート、マネーサプライ、信用の伸びにどのように対応するかです。ウォーシュ氏の考え方は従来、過去のFRB議長と比べて、よりマネタリスト寄りでした。ただし、同氏がそれをどの程度積極的に適用するのか、また委員会の他のメンバーに対してどれほどの影響力を持つのかは、まだ分かりません。これが重要なのは、民間経済がより多くの資本を使用しており、流動性に対して過度に制約的なアプローチを取れば、政策金利そのものよりも大きな意味を持つ可能性があるためです。 これが、私が引き続き質の高い大型株を選好している理由の一つです。高いフリーキャッシュフロー利回り、低い会計発生高、業務効率のファクターが主導しており、従業員一人当たり売上高が高いというファクターも、最近最も強いパフォーマンスを示しているものの一つです。これは、AIの実現を支える企業よりも、AIを導入する企業を選好するという弊社の見方とも、非常に合致しています。 株価モメンタムが消えつつあるわけではありません。ただし、その中身は、質が高く、サービス志向で、資産をあまり持たず、手数料収入を基盤とするビジネスへと変化しています。これは、景気サイクル半ばへの移行期にまさに起こるべきことです。 目先の変動要因としては、エネルギー価格が引き続き重要です。原油や石油製品の価格がさらに大きく上昇すれば、予想される政策金利の経路、長期債利回り、債券のボラティリティに、不健全な形で上昇圧力がかかることになります。また、そのような動きは、中間選挙の季節性により指数が5%から10%調整することが多い時期に起こることにもなります。 目先の最悪シナリオでは、S&P500は7,100付近で取引される可能性がありますが、私はそれを強気相場の中での戦術的な調整と捉えます。弊社のファンダメンタルズに関する見方が変わったということではありません。いずれにしても、私は年末の目標値である8,000に引き続き確信を持っています。 結論として、この相場は、景気サイクル半ばの相場が本来示すべき動きをまさに示しています。バリュエーションは低下し、企業利益が相場を支え、主導役は質の高い銘柄へと移っています。指数だけを見ると落ち着いているように見えるかもしれませんが、個別銘柄のレベルでは、すでにかなりの懸念が織り込まれています。 間違いとなるのは、底堅さを楽観と取り違え、目の前で進んでいるローテーションを見逃してしまうことです。 最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。

    市場の底堅さは楽観の表れではない
  8. Sep 18

    トランプ・習会談で貿易とテクノロジーに焦点

    習主席がワシントンに向かうなか、貿易、レアアース、AIが議題の中心になる見通しです。弊社の米国公共政策リサーチ責任者であるアリアナ・サルバトーレが、今回の会談がサプライチェーン、テクノロジー株、そして市場全般にどのような意味を持ち得るのかを解説します。 このエピソードを英語で聴く。 トランスクリプト  市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。 本日のエピソードでは、弊社の米国公共政策リサーチ責任者、アリアナ・サルバトーレが、来週予定されている米中首脳会談について、特に二国間の貿易関係、重要鉱物とレアアースを巡って見込まれること、AIに関する対話、そしてそれらが市場にとって何を意味するのかについてお話しします。 このエピソードは9月18日にニューヨークにて収録されたものです。 英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。 習主席は9月24日にホワイトハウスを訪問し、今年2回目となるトランプ大統領との会談に臨む予定です。習主席がホワイトハウスを訪れるのは、およそ10年ぶりとなります。 両首脳が会談するのは、トランプ大統領が北京を訪問した5月以来です。その際、両国は「建設的な戦略的安定関係」と呼ぶ枠組みを確立しました。また、その会談では、新たな貿易・投資対話、農産物購入と航空機に関するコミットメント、そして人工知能に関する対話を開始することで合意しました。 ただ、来週の首脳会談は重要なタイミングで行われます。経済関係の安定化に寄与してきたいくつかの暫定措置が、この秋後半に期限を迎えるためです。 弊社では、注目すべき分野が3つあると考えています。 1つ目は貿易です。現在の米中関税休戦は、11月に期限を迎える予定です。報道によると、両政府は休戦期間の延長について協議しており、それに加えて、農業、非関税障壁、そして関税が引き下げられる可能性のある比較的限られた品目群についての発表も検討されているようです。 したがって、市場にとっての焦点は、来週に包括的な新たな貿易合意が成立するかどうかというよりも、両国が現在の安定期間を延長し、関税の大幅な再引き上げを防ぐことができるかにあります。 2つ目の分野は重要鉱物です。これは、おそらく相手に対する双方の交渉力を示す、最も分かりやすい例の1つです。 弊社では、米国政府は、半導体、自動車、航空宇宙、防衛など幅広い分野で使われるレアアースやその他の重要材料について、中国からの輸出をより予見可能なものにしたいと考えているとみています。一方、中国政府は、中国企業が先端技術にアクセスすることを制限する米国の措置に反発してきました。 報道によれば、これらの問題はいずれも首脳会談に向けた交渉事項の一部となっており、ここでは時期が非常に重要です。11月10日には、中国のレアアース規制と米国のテクノロジー管理に影響する期限が控えており、11月後半には一部の鉱物に関する別の期限もあります。つまり、来週何が起きるかによって、こうした制限が引き続き停止されるのか、それとも再び発動され始めるのかが決まる可能性があります。 3つ目の分野はテクノロジーで、なかでも人工知能の重要性が高まっています。両首脳は5月にAI対話を設置することで合意しており、トランプ大統領も、来週AIについて協議すると具体的に述べています。 報道では、AIに共通するリスクも協議分野の1つになり得るとされています。ただ、競争関係全般を考えると、包括的な合意は難しいと弊社ではみています。政策の観点から最も重要なのは、テクノロジー規制が先端半導体以外にも広がりつつあるという点です。議論には、クラウドや計算資源へのアクセス、モデルの配布、調達、そして場合によっては特定の外国製AIモデルそのものの利用も含まれています。 言い換えると、首脳会談ではAIについて対話を続けるといった合意が得られる可能性はありますが、弊社では、その背景にある変化の方がより重要だと考えています。AI主権という考え方は、より長い時間軸で見ても、米中両国を、より多くの制限や政府の関与拡大へと向かわせるものです。 弊社では、米国のアプローチとしては中間的な道筋の方が現実的だとみています。つまり、中国のオープンウェイト・モデルを一律に禁止するのではなく、特定の中国の開発企業を対象にした限定的な制限を想定しています。ただ、それでも弊社が「2つの世界」シナリオと呼んできた見方、つまり米中のテクノロジー・エコシステムが、インフラ、サプライチェーン、標準、流通チャネルを別々に持つ、ますます異なるものになっていくという見方を強めることになります。 議題には他にも多くの問題が含まれる可能性があります。特に米国とイランの対立は、協議におけるテールリスクだと弊社ではみています。 では、これらは投資家にとって何を意味するのでしょうか。 首脳会談が建設的なものになったとしても、テクノロジーとサプライチェーンの多様化に向かう構造的な流れが反転する可能性は低いとみています。実際、弊社では、米中の分断が進むことで、並行するエコシステム、半導体生産能力、データセンター、クラウド・インフラ、電力、そして重要鉱物のサプライチェーンへの投資がむしろ強まると考えています。 その意味では、来週、地政学的な問題が実際に緩和に向かえば、短期的な市場のボラティリティは低下する可能性があります。しかし、それによって基調的な投資サイクルが必ずしも変わるわけではありません。 したがって、首脳会談後の重要な焦点は、両国関係が改善しているのか悪化しているのか、という単純なものではありません。より長期的なデリスキングのプロセスが水面下で続くなかで、両国が競争を管理するのに十分な安定性を維持できるかどうかです。 最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。

    トランプ・習会談で貿易とテクノロジーに焦点

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モルガン・スタンレーが配信する金融ポッドキャスト「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)では、マーケットに影響を与える様々な事象について当社のソートリーダーによる考察をお届けします。

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