いなか医師の勉強ノート

「聞くのが怖い」の正体とは?GPが性的暴行の既往に踏み込めない理由

今回のエピソードでは、プライマリ・ケアの現場で非常に重要でありながら、避けて通られがちな「性的暴行(Sexual Assault)」の話題化について取り上げます。オランダで行われたGP(総合診療医)へのインタビュー調査から、なぜ私たちは患者の性的トラウマについて聞くことをためらってしまうのか、その心理的・構造的な障壁を深掘りします。「解決策を持っていないと聞いてはいけない気がする」「トラウマを想起させて悪化させるのが怖い」……そんな医師ならではの葛藤と、それを乗り越えるためのヒントを学びます。

本研究は、オランダのGP14名を対象に、性的暴行の特定と議論に関する経験を調査した定性的インタビュー研究です。

分析の結果、話題化を阻む要因として主に2つのテーマが特定されました。第一は「専門職としての落とし穴」です。身体的症状のみに焦点を当てる「生物医学的視点(Biomedical gaze)」や、即座の解決策を提示しなければならないと考える「解決志向(Solutionism)」が、背景にある性的暴行への気づきを妨げていました。

第二は「対人・個人的課題」であり、異性の患者に対する遠慮や、「患者を傷つけるのではないか」という恐怖心、医師自身の感情的な抵抗感が障壁となっていました。性的暴行は健康全般に長期的な影響を及ぼすため、医師がこれらの障壁を自覚し、生物心理社会的なアプローチをとることの重要性が示唆されています。

van Zyl-Bonk F, Lagro-Janssen A, de Klein A, Teunissen D. What deters GPs from talking about sexual assault? A qualitative interview study. Br J Gen Pract. 2025; DOI: https://doi.org/10.3399/BJGP.2024.0761. [Epub ahead of print]

#地域医療 #プライマリ・ケア #いなか医師の勉強ノート #性的暴行 #コミュニケーション #質的研究