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63,【前編】12月21日 月曜日 13時51分 北上山運動公園駐車‪場‬ オーディオドラマ「五の線」

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「何で電話かけてくるって?そりゃあお前、おたくの理事官さんが帳場のことはお前に聞けっておっしゃっていらっしゃったからやわ。あ? ほんなもん知らんわいや。こっちが聞きてぇわ。お前こそあいつにいらんことちゃべちゃべ喋ったんじゃねぇやろな。あ?…喋っとらん?…そうなんか…。」
会話の内容から電話の相手は岡田であることがわかる。片倉は県警で松永と出くわした。出くわしたというよりも、松永が片倉をつけていたと言った方が表現が適切かもしれない。松永の口から岡田の名前が出たため、彼がこちらの事をリークした恐れがあった。今朝、岡田とはお互いの行動の極秘を誓った筈なのに、何故お前は裏切るような行動を取るんだと詰問しようとした片倉だったが、岡田の弁明によってそれは誤解だとすぐにわかった。片倉は信頼できるはずの部下を、このように疑いの目を持って詰問した自分の節操のなさに嫌気が差した。
結局のところ松永が何故自分の行動を捕捉していたか、その原因は分からずじまいだ。
文子からの事情聴取を終えた片倉はアサフスの裏手にそびえる北上山の中腹にある運動公園の駐車場に車を止めた。
「おい、片倉。」
彼の隣で煙草をふかしながら、窓の外にチラホラと舞ってきている雪の様子を見ていた古田は声をかけた。片倉は古田の呼びかけに、何故自分が今、岡田に連絡を取っているかを思い出した。
「ああ…岡田、お前を疑ってしまってすまんかった。ところで帳場のほうで何か変わった動き、無かったか?」
換気のため指二本分開いた窓から古田は吸い込んだ煙を勢い良く吐き出した。
「何?似顔絵?何の…。…おう。…ふん…。…タクシーで熨子山か?小松空港から…。おう。」
片倉はドアを開けて車外に出た。そして彼は古田同様煙草に火をつけ、岡田からもたらされる捜査本部の情報に耳を傾けた。5分ほど話し込んでいただろうか。彼は再び車内に乗り込んでスマートフォンの画面を見つめた。しばらくしてそれは受信音を発した。片倉は3度ほど画面をタッチし、届いたメールを見る。彼の身体は固まった。
「どうした。」
「トシさん…。これ…。」
そう言うと片倉は画面を古田に見せた。それを見た古田も動きを止めた。
「どういうことや…これ、鍋島じゃいや。」
片倉はスーツのポケットから、先程文子から拝借した鍋島の写真を取り出して、画面に表示される似顔絵と見比べた。
「間違いねぇ。」
「片倉、こいつがどうしたって?」
「ああ、この似顔絵の男を小松空港から熨子町まで運んだっていうタクシー運転手が、今朝北署に来たそうなんや。このタクシーの運転手が言うには、こいつは熨子町までの道中、ほとんど何も話さんかったらしい。運転手の問いかけには、はいとかいいえだけ。ほんで唯ひたすら前の方だけを見とったそうなんや。ところが、この男が唯一動いた瞬間があった。」
「おう。何やそれは。」
「穴山と井上を目撃した瞬間や。」
「何ぃ?」
「山側環状をちんたら走っとるこいつらをタクシーが追い抜かそうとした時、この鍋島と思われる男は奴らを追うように見つめ続けとったそうなんや。何に関しても反応が薄かった男がや。」
古田は自分の顎に手をやってしばらく考えた。
「…鍋島は、穴山と井上の存在をその時点で既に

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「何で電話かけてくるって?そりゃあお前、おたくの理事官さんが帳場のことはお前に聞けっておっしゃっていらっしゃったからやわ。あ? ほんなもん知らんわいや。こっちが聞きてぇわ。お前こそあいつにいらんことちゃべちゃべ喋ったんじゃねぇやろな。あ?…喋っとらん?…そうなんか…。」
会話の内容から電話の相手は岡田であることがわかる。片倉は県警で松永と出くわした。出くわしたというよりも、松永が片倉をつけていたと言った方が表現が適切かもしれない。松永の口から岡田の名前が出たため、彼がこちらの事をリークした恐れがあった。今朝、岡田とはお互いの行動の極秘を誓った筈なのに、何故お前は裏切るような行動を取るんだと詰問しようとした片倉だったが、岡田の弁明によってそれは誤解だとすぐにわかった。片倉は信頼できるはずの部下を、このように疑いの目を持って詰問した自分の節操のなさに嫌気が差した。
結局のところ松永が何故自分の行動を捕捉していたか、その原因は分からずじまいだ。
文子からの事情聴取を終えた片倉はアサフスの裏手にそびえる北上山の中腹にある運動公園の駐車場に車を止めた。
「おい、片倉。」
彼の隣で煙草をふかしながら、窓の外にチラホラと舞ってきている雪の様子を見ていた古田は声をかけた。片倉は古田の呼びかけに、何故自分が今、岡田に連絡を取っているかを思い出した。
「ああ…岡田、お前を疑ってしまってすまんかった。ところで帳場のほうで何か変わった動き、無かったか?」
換気のため指二本分開いた窓から古田は吸い込んだ煙を勢い良く吐き出した。
「何?似顔絵?何の…。…おう。…ふん…。…タクシーで熨子山か?小松空港から…。おう。」
片倉はドアを開けて車外に出た。そして彼は古田同様煙草に火をつけ、岡田からもたらされる捜査本部の情報に耳を傾けた。5分ほど話し込んでいただろうか。彼は再び車内に乗り込んでスマートフォンの画面を見つめた。しばらくしてそれは受信音を発した。片倉は3度ほど画面をタッチし、届いたメールを見る。彼の身体は固まった。
「どうした。」
「トシさん…。これ…。」
そう言うと片倉は画面を古田に見せた。それを見た古田も動きを止めた。
「どういうことや…これ、鍋島じゃいや。」
片倉はスーツのポケットから、先程文子から拝借した鍋島の写真を取り出して、画面に表示される似顔絵と見比べた。
「間違いねぇ。」
「片倉、こいつがどうしたって?」
「ああ、この似顔絵の男を小松空港から熨子町まで運んだっていうタクシー運転手が、今朝北署に来たそうなんや。このタクシーの運転手が言うには、こいつは熨子町までの道中、ほとんど何も話さんかったらしい。運転手の問いかけには、はいとかいいえだけ。ほんで唯ひたすら前の方だけを見とったそうなんや。ところが、この男が唯一動いた瞬間があった。」
「おう。何やそれは。」
「穴山と井上を目撃した瞬間や。」
「何ぃ?」
「山側環状をちんたら走っとるこいつらをタクシーが追い抜かそうとした時、この鍋島と思われる男は奴らを追うように見つめ続けとったそうなんや。何に関しても反応が薄かった男がや。」
古田は自分の顎に手をやってしばらく考えた。
「…鍋島は、穴山と井上の存在をその時点で既に

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