バレーボールに話しかけよう

伊舎堂 仁

短歌

  1. 3日前

    サイゼリヤのなくなる街で笑いあう青いジャージを着た子供たち/藤井柊太

    藤井柊太 歌集『パースペクティブ』 ⚫︎ 夢の中でサングラスかけていたお母さん 晴れていたので職を探した 24 元日のコンビニで働く店員の員という字に誰もが似ている 23 街灯のともる瞬間とびたったハトの純度は高いのだろう 26 サイゼリヤのなくなる街で笑いあう青いジャージを着た子供たち 37 家燃える時はあそこに仕舞ってるマッチも燃えるのだろう激しく 42 パレットに空や海にはなってない青い絵の具の固まりがある 51 庭のない家に育てば庭を見て土地だと思う 土地に降る雨 57 わたしが死んだら夢はどこへ行くあの町はあの河川敷は鉄道は 太陽 59 アザラシが水の中では犬みたくラブを表現して示唆に富む 97 サンプルの蟹と苺はあざやかに終わりゆく国 とても小さな 115 ⚪︎ 10首選には入らなかった4首 鉄橋をしずかに渡るそれだけで始発電車を愛してしまう 31 恋愛をしている間に死んでいた夢 その中では見えていた水底 33 プルキンエ現象 青い天井にやばい思想をぼそぼそ話す 52 新しいものほど深い地下鉄は破綻してゆく制度のようで 62 ⚫︎ メリーゴーラウンドの光で終わる小説の中のモブだよ、しかも気さくな これが好きな人は(それはそれで)藤井柊太を好きすぎるだろう、という気はする ⚫︎ コンセントの大きい穴にこころを開き小さい穴にこころを許す/斉藤斎藤『人の道、死ぬと町』 ローソンのバックヤードでくちづけをおぼえる子供たちによろしく/魚村晋太郎『バックヤード』 私が死んでしまえばわたくしの心の父はどうなるのだろう/山﨑方代『こおろぎ』 ⚫︎ ビリビリに破いた ウォーターベッドのチラシ 爪先で歩く猫に何かしら愛を感じた 冷えたチキンスープ 人間だらけでも旅は続く (BLANKEY JET CITY『プラネタリウム』) https://music.apple.com/jp/album/%E3%83%97%E3%83%A9%E3%83%8D%E3%82%BF%E3%83%AA%E3%82%A6%E3%83%A0/1475713237?i=1475713239

    サイゼリヤのなくなる街で笑いあう青いジャージを着た子供たち/藤井柊太
  2. 8月5日

    真夜中に出かけて次の真夜中に帰ってきてちょっとだけ眠った/篠原仮眠

    歌集『banana flavored chewing gum』 真夜中に出かけて次の真夜中に帰ってきてちょっとだけ眠った コンビニの中ではぐれてアーモンドチョコの辺りを探しに行った 漫才が終わった頃にやってくる三人目から二人で逃げる  クリスマスツリーを飲んでみんなから嫌われて死ぬまで光ってた  星の色なんて考えたことないや 手 繋いだまま 泳ぐ 方法  約束をみんな守って、約束が慌てて赤くなるのを見てた  公園の遊具が塗り直されている いま子どもたちは学校だから お土産を渡す相手が少ないと詳しくなれないねお土産には ライオンのお腹のあたりゆれていてなんか不安になる早送り  階段を発明したら天国へ行ける発明した階段で  ⚫︎ ミスド よく考えたら好きじゃなかった あなたを さっきまで好きだった  ⚫︎でもきみでなくてもよかったということ暮れる川辺でいつか話そう/山中千瀬『死なない猫を継ぐ』    ⚫︎ そっくりそのままきみにあげるよ 嘘つくよ 死なない猫になって向かうよ/初谷むい『わたしの嫌いな桃源郷』  ⚫︎ああ君に飽きたくないな ラップされラーメン屋のリモコン不思議そう/武田穂佳『江古田文学103号』 ⚫︎ オープンカー あなたはひどい悪人で雨の日もサングラスのギャング 公園の遊具が塗り直されている いま子どもたちは学校だから  からっぽの檻は荒野に捨てられてとっても風に詳しくなった  満月に話し相手はいなかった 発祥の地で廃れた踊り  ⚫︎ はじめからここに来ようとしたわけじゃないなら落ち葉どうしてだろう    ↪︎呼び捨てにされる準備をする前に燃える聖堂どうしたらいい/藤本玲未『テリーヌの夢』 ⚫︎ 短歌

    真夜中に出かけて次の真夜中に帰ってきてちょっとだけ眠った/篠原仮眠
  3. 7月6日

    おこる? って訊かれてさびしかったこと心に柿の黒点ほどに/笠木拓

    歌集『オランジェット』 カーテンがあるからでかいバスは好きうまれるまえの竜のまどろみ  雪かきが引き連れてくる空腹は魔獣でそれに食わせるお餅  スコップがすこし曲がって一月の後部座席にそのまま暮らす きみといるといつもかもめが背景を奥へゆく なぜかな さよなら  夕凪の波打ち際は去るためにあるからやっとふたりは去った  僕にまだ敵に回せる世界すらなかった春の夜のりんご飴  一周忌で来たと寿司屋に答えればほんとうに祖母はもういない  みるままにすなば塗りつぶした雨のそれからだった痛かったのは もうだれに泣いていいかと問うこともなくてアロエの欠けた切っ先  なーーんだ嘘なんだって笑いあう再会までは傘かりとくね  おこる? って訊かれてさびしかったこと心に柿の黒点ほどに 珈琲を飲んでからする夜歩きは言葉がむしろろころこ眠い  よけたけど酔っていたのですこし踏むぎんなんの実のださいにおいだ  チャイ注げば薪(たきぎ)のにおいにんげんとお酒を飲んで遊んだあとの  死後もあるいは余生だろうか回りくるおすしの上の魳(かます)きときと  ⚪︎ 口堅い運転手など連れてまだどこかにいる気がする 後白河  お姉ちゃんみたいなひとがまたひとり人妻になる 縁石をゆく(笠木拓『はるかカーテンコールまで) ⚫︎ 大丈夫ちゃんと呪いだ僕の手は遺書のつもりで書かなくたって   「2013年感」  あまり会ひに来てくれないと(ゆふぞらだ)つよくなんども叱責されて/藪内亮輔『海蛇と珊瑚』 おしばなの栞のやうなきみの死に(嘘だ)何度もたちかへる夏/吉田隼人『忘却のための試論』 ⚫︎ つぎは夜景見せてって手を振ってから改札を抜けざまにブロック   ↪︎ 砂糖までチカチカなのかこの星は宇宙にハブられた安い星/篠原仮眠『banana flavored chewing gum』の「ハブられた」 もなかアイス おまえを包むぎんいろの闇をゆびもて裂くときがきた  ↪︎ 銅と同じ冷たさ帯びてラムうまし。どの本能とも遊んでやるよ/千種創一『砂丘律』

    おこる? って訊かれてさびしかったこと心に柿の黒点ほどに/笠木拓
  4. 6月27日

    傾くとわたしの海があふれ出す いとこのようなやさしさはいや/田中槐『ギャザー』

    田中槐『ギャザー』   13首選 ⚫︎ 午前中わたしは爬虫類であるゆっくり瞬きくらいはできる  傾くとわたしの海があふれ出す いとこのようなやさしさはいや  逃げてゆく君の背中に雪つぶて 冷たいかけら わたしだからね  村へ行く一本道をぱたぱたとカブ走らせて、まさるくんったら  おとうとの独楽しゅんしゅんと止まるまで見てはいけない喧嘩はつづく  「ピコ秒で測定不能」君からの愛はもはやもはや…… 立つわたし、いきなり語り出すわたし ウラル=アルタイ語圏のわたし  わたくしは個である。ゆえに類であるあなた方とは美(は)しく繋がる  受話器の向こうで君は赤い目をしていたはずさ 蝶々のテレカ  幾筋もうしろめたさをひきずってO型だから不幸なあなた  くっくっと春の笑いのぎこちなさ赤い鳥居はどこまで続く  どんよりと女ら群れる食卓の赤絵の皿に満たすポタージュ 夜の湖(うみ)ほのかに光る垂線にそってわたしの斧沈みゆく  ● ちなみに未来の人は未来の会で「当たると思ってなくてびっくりしましたうんぬんかんぬんどうたらこうたら」をやると、田中槐さんに叱られます。あなたのその発言をきく時間は、だれのなんの役にも立たない。もちろんわたしもかつて叱られた一人なんですが。 mymhndさん ツイート 2015.5.25 会場評は、主水透、田丸まひる、江田浩司、戸田響子、嶋稟太郎、遠野真、服部真里子、桜井夕也、鈴木麦太朗、本条恵、島なおみ、門脇篤史、山階基。「当たると思っていませんでしたもにゃもにゃタイム」が一切なくていいな。結社で鍛えられてる感。(結社じゃなくて槐さんかも) mymhndさん ツイート 2016.8.21 当時の伊舎堂「こう言える人ってのは絶対におもしろい(怖いからおれは気をつけよう)」 ● 田中槐さん 2026.5.13 X(Twitter)でのツイート 最近、わたしの第一歌集『ギャザー』を国会図書館で(電子データで!)読んだという若者に続けて会って、本当に申し訳ない気持ちになっている。餅まきみたいにばらまいていた昔のわたしを叱りに行きたい… ⚪︎ 何が申し訳ないって、電子データでは帯は読めないんですよね。あの歌集は柄谷行人の帯文にいちばん価値があるので😅 ⚫︎ 📝録音に際してのメモ 逃げてゆく君の背中に雪つぶて 冷たいかけら わたしだからね   ↪︎ 「冷たいかけら」といふ、一見不要にみえる説明の語が、「わたしだからね」と対応することで、息をふきかへす。(岡井隆) ⚪︎ どんよりと女ら群れる食卓の赤絵の皿に満たすポタージュ  ↪︎ 第二歌集の『砂の卵』の〈質感を伴った嫌さ〉、エロティックさへ発展するような感じ ⚪︎ 哲学の教授と帰る東横線ヤスパースとアーレントのように それぞれのダークマターに満たされて恋虫たちはさめざめと泣く 眠る前少しの読書 現実と夢のはざまに「千のプラトー」    「退屈な器」の歌を含め、このあたりの歌に短歌の読者たちはムラっとこなかったのかな、って感じ ブッキッシュ、ペダンチック、生き物、虫、肩甲骨、とかの人間の部位の名前…… ⚪︎ 抒情の歌はあるし、認識の歌もある。しかし、田中槐の歌の新鮮さは、認識と情が対立的に交差する一瞬に、そのいずれでもないような何かをとらえようとしているところにある。          ーーーーー柄谷行人

    傾くとわたしの海があふれ出す いとこのようなやさしさはいや/田中槐『ギャザー』

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