ボイスドラマ〜Interior Dream

Ks(ケイ)、湯浅一敏、インテリアドリーム
ボイスドラマ〜Interior Dream

インテリアが家族の絆をつむぎだす・・・ハートフルな一話完結の物語を各前後編に分けてお送りします。(CV/ 男性役=日比野正裕、女性役=桑木栄美里)

  1. ボイスドラマ「ノルディックベンチ」後編

    1D AGO

    ボイスドラマ「ノルディックベンチ」後編

    後編は、舞台を19世紀のノルウェーに移し、「ノルディックベンチ」に刻まれた伝説を描いていきます。厳しい冬の北極の町で、家具職人エミルと聖歌隊の少女カレンは出会いました。許されぬ恋、離れゆく運命、そして吹雪の中の決断。このベンチが、なぜ「永遠の愛を見守る」と語り継がれるようになったのか─その答えが、ここにあります。 前編とは違った、静かで切ない物語。 【登場人物のペルソナ】 ・エミル(25歳)=ノルウェーの『北極の町』アルタに住む家具職人。教会に頼まれて礼拝堂のベンチを作っている。カレンと出会い恋に落ちる。2人で語り合った思い出をいつまでも残すために、ベンチに北極の星座の装飾を彫る(CV:日比野正裕) ・カレン(18歳)=クリスマスの時期になると小さな村を回る聖歌隊のなかの1人。初めてアルタにやってきたとき、エミルと出会い、恋に落ちるが、聖歌隊では恋愛は禁止。2人はエミルの作ったベンチに座って語り合った・(CV:桑木栄美里)・ ■資料/古代遺跡を照らすオーロラの町!ノルウェー・アルタ https://skyticket.jp/guide/314110/ <シーン1/クリスマスの前〜アルタの町の小さな教会の礼拝堂> (SE〜吹雪の音〜教会の鐘の音) 神父:「皆さん、今年もクリスマスが近づいてきました。 神の恵みに感謝し、心を一つにしてその日を迎える準備をしましょう」 エミル:ノルウェー。北極の町、アルタ。 19世紀の中ごろ。 田舎町の小さな教会で、年老いた神父が語り出す。 神父:「来週には聖歌隊もやってきます。 この礼拝堂もいつもとは違った温かな歌声で満たされるでしょう」 エミル:私の名はエミル。駆け出しの家具職人だ。 アルタで生まれ、アルタで育った。 いまは、神父さまに頼まれて、ベンチを作っている。 あとは、 聖歌隊席に置く4脚のベンチを作ればすべて完了だ。 小さな教会だから、ベンチの数も多くない。 礼拝堂に3人かけのベンチが10脚。 聖歌隊席には2人かけのベンチが4脚。 聖歌隊の人数も10人に満たないのだから問題ない。 さあ、急ごう。 来週、聖歌隊がやってくるまでに、完成させないと。 <シーン2/小さな教会に聖歌隊がやってきた> (SE〜教会の鐘の音〜ゴスペル〜曲終わりで) エミル:今年の聖歌隊は1人多い。 大人の女性たちに混ざって、1人だけ、多分10代、の少女が歌っていた。 ひときわ澄んだ歌声に、心が洗われるようだ。 と、感心している場合じゃない。 僕はゴスペルを聴き終えると、神父さんに目配せをして 工房へと急いだ。 (SE〜工房の環境音) 今晩無理すれば、あと一脚くらい、ベンチは作れるだろう。 少女は1人、立って歌っていた。 本当に悪いことをした。 罪滅ぼしの意味も含めて、聖歌隊席に追加したベンチには 心をこめて北極の星座を彫刻する。 北極星(ポラリス)を含む小熊座。 ポラリスは、永遠の導きと不変の象徴。 これは彼女のために。 彼女が座る左端に掘った。北斗七星がしっぽの、大熊座(おおぐま座)。 航海や旅路の守り神だから。彼女へ。 W字の形をしたカシオペア。 美しさと知恵の象徴ってことはこれも彼女かな。 <シーン3/小さな教会の礼拝堂に最後のベンチを納品> (SE〜朝の環境音/小鳥のさえずり/ベンチを設置する音) カレン: 「おはようございます」 エミル: 「あ」 カレン: 「まあ、なんて美しいベンチ」 エミル: 「あ、ありがとうございます」 カレン: 「やだ、こんな小娘に敬語なんて」 エミル: 「いや、だって・・・」 カレン: 「カレンって呼んでください」 エミル: 「はい、わかりました・・・」 カレン: 「あなたのお名前は?」 エミル: 「エミルといいます・・・」 カレン: 「いいお名前」 エミル: 「あ、ありがと・・・」 カレン: 「ベンチに彫ってあるのは星座?」 エミル: 「うん、北極の星座」 カレン: 「へえ〜。夜じゃないのにキラキラ輝いてる」 エミル: 「金箔と銀箔を埋め込んであるから」 カレン: 「座ってもいいかしら、エミル」 エミル: 「あ、どうぞ・・・カレン・・」 君のために作ったんだ・・・とは言えなかったけど。 カレンは、右端のカシオペアに座った。 ギリシャ神話のカシオペアは、美しさを誇示するキャラクター。 そのために神々の怒りを招いて破滅をもたらした。 美しいカレンには、そうならないでほしいな。 聖歌隊席のベンチは、向かって右側に2脚、左側に2脚・・ だったけど、いまは左側2脚の横に、少し小ぶりなベンチが1脚。 そこにカレンがちょこんと座る。 そんなに大きくないベンチだけど、小柄なカレンが座ると 不釣り合いで思わず笑った。 カレン: 「このベンチは何人がけ?」 エミル: 「一応2人がけだよ」 カレン: 「そっか。じゃあエミル、ここに座って」 エミル: 「そんな・・・」 躊躇いつつ、ポラリスにもたれる。 カレンとは距離を保ち、僕はベンチの右端に寄って。 行き場のない北斗七星が、カレンと僕の間で煌めいていた。 <シーン4/クリスマス目前〜小さな教会の礼拝堂/聖歌隊席> (SE〜小鳥のさえずり〜教会の鐘の音) カレン: 「おはよう、エミル」 エミル: 「おはよう、カレン」 早朝。 誰もいない礼拝堂で、僕たちは語り合った。 カレンの家は、南の町、トロンハイム。 お母さんと2人暮らしだという。 お母さんは、敬虔なクリスチャン。 カレンが18歳になるとすぐに聖歌隊に参加させた。 カレンも歌うことが好きだったから、 喜んで小さな村々を回っているそうだ。 確かに、透き通ったカレンの歌声は、 まるで、天使の讃美歌。 瞳をキラキラさせて話をするカレンに ステンドグラスから朝の光が差し込む。 それはまるでオーロラのように、幻想的な光の色彩を作り出す。 僕は、朝のこの時間のために 毎日を生きているような気持ちだった。 <シーン5/クリスマスイブ〜小さな教会の礼拝堂> (SE〜教会の鐘の音〜ゴスペル〜曲終わりで) エミル: クリスマスイブ。 その日、カレンは聖歌隊にいなかった。 風邪でもひいたのか。 違った。 カレンのいる聖歌隊は、恋愛禁止。 ましてや、カレンは未成年。 聖歌隊の皆も、神父さんも僕には何も教えてくれなかった。 真実を知ったのは、礼拝に来る人たちから。 聖歌隊から外されたカレンはひとり実家へ戻っていったという。 いや、待てよ。 確かカレンの家は、遠く離れたトロンハイム。 そんなところまで1人で帰れるわけがない。 僕はクリスマスミサも早々に、吹雪の外へ飛び出す。 まさか、まさか。 1人でトロンハイムへ? この吹雪のなか、山越えを? いったいどれだけ距離があるか知っているのか? 深い森やフィヨルドを抜けていかなきゃならないのに。 僕はカレンを追って、雪山へ入った。 行く手を阻むラーガ山脈の険しい峰。 視界は1メートル先も見えない。 氷点下の風は肌を刺し、息を吸うたびに肺が痛む。 カレンの足なら、まだそう遠くまでいけるはずはない。 スカンダ渓谷の入り口まできたとき、 針葉樹の大木の根元に白いかたまりを見つけた。 それは雪に埋もれたカレンの小さな体。 クリスマスツリーから落ちたオーナメントのように 美しい顔にも雪が降り積もる。 「カレン!」 僕はカレンを抱き上げると、今来た道を戻っていった。 <シーン6/クリスマスの翌日〜教会の庭のベンチ> (SE〜夜の環境音) エミル: アルタに戻ったのは、イブが明けたクリスマスの未明。 教会の扉は閉ざされ、町は静まり返っている。 いつのまにか吹雪はおさまり、 見上げると暗闇の隙間からオーロラが夜空を彩っている。 主人(あるじ)のいなくなったベンチは教会の庭に置かれていた。 僕は冷たくなったカレンを抱き、ベンチに座らせる。 ■BGM〜「インテリアドリーム」 ああ、カレン。寒かったろう。凍えただろう。 僕は、カレンの横に座って彼女を強く抱きしめる。 体温が、カレンの魂を温めていく。 ポラリスとカシオペアにはさまれて 北斗七星の前で僕たちは・・・ 神父: 「アルタの町は静けさに包まれ、 いつしかまた降り出した雪が ノルディックベンチに佇む2人の上に、 ゆっくり静かに降り積もっていきました」 ※ **ノルディックベンチのディテール**   「ノルディックベン

    13 min
  2. ボイスドラマ「ノルディックベンチ」前編 

    1D AGO

    ボイスドラマ「ノルディックベンチ」前編 

    インテリアデザインの世界に生きる若き二人─建築士の彼と、インテリアコーディネーターの彼女。最悪の出会いから始まる二人の関係が、1年という時間の中でどのように変わっていくのか。北欧家具のデザインと、伝説のベンチがどんな意味を持つのか。「インテリア」とは、単なる家具や空間の話ではなく、「人の暮らしと記憶を紡ぐもの」でもあります。その本質が、この物語を通じて少しでも伝われば嬉しいです。 そして、この物語は Spotify・Amazon・Apple などのPodcastプラットフォーム、服部家具センター「インテリアドリーム」公式サイト でもお聴きいただけます。 【登場人物のペルソナ】 ・男性(25歳)=大手の建設設計会社で働くエンジニア。働きながら将来的にはインテリアデザイナーを目指して勉強している。12月の声を聞いた頃、本社東京への転勤の話が持ち上がる(CV:日比野正裕) ・女性(26歳)=ハウスメーカーで自社物件のインテリアコーディネーターをしている。海外研修をしたくて入社した当初から人事部に志望を出していた。来春のLA支社開設に伴い、支社専属コーディネーターの候補として自分の名前があがっていた(CV:桑木栄美里) 【Story〜「ノルディックベンチ/前編」】 ※今回は試験的にモノローグがシーンごとに変わります <シーン1/最悪の出会い(1年前)> (SE〜展示会の環境音/BGMはクリスマスソング) 女性:「正直に言わせてもらいますけど、この家具。 北欧風のダイニングってテーマに全然合ってないですよね。 まず、シルエットが重すぎる。 北欧家具の魅力って、シンプルで軽やかなラインと、 視覚的にも空間的にも“抜け感”を生むデザインにあるんです。 これじゃ、空間全体が圧迫されてしまう」 男性: インテリアショップのワークショップ。 出品者同士で語り合うオフ会で いきなりの先制パンチ。 彼女、確か、ハウスメーカーのインテリアコーディネーターだったよな。 女性:「素材のチョイスも疑問ね。 北欧スタイルは、オークやアッシュみたいに明るい色味の天然木材が主流でしょ。 でもあなたのベンチは色味が暗くて、まるで重厚な和風家具みたい」 男性:「な・・」 女性:「あと、プロポーションがアンバランスだわ。 チェア自体が大きい割に、座面の高さが低すぎる。 北欧のダイニングセットは、家族や友人が集まる“ソーシャルスペース”。 座り心地やテーブルとの相性をもっと考えるべきじゃないですか?」 男性:「この・・言わせておけば・・」 しかし、確かに言われることには筋が通っている。 そもそも僕はまだプロのインテリアデザイナーじゃない。 今回、プロアマ問わずに作品を募っていたワークショップに出品したんだ。 僕は大手の建設コンサルタント会社で働く建築設計士。 まだ4年目だけど、二級建築士の資格を持って建築図面を引いている。 でも今日のワークショップは仕事じゃない。 実はいま、インテリアデザインの勉強をしているんだ。 それで、『北欧デザイン』をテーマにしたこのワークショップに 作品を作って応募したってわけ。 撃沈。 苛立って睨みつける僕に、彼女は余裕の笑みを返してきた。 <シーン2/会長宅リフォームのプレゼン>※最悪の場合、会長は湯淺・・ (SE〜プレゼンルームの環境音) 女性:「今回の会長宅のリフォームでは、北欧スタイルを取り入れたいと思います。 自然素材の家具と柔らかな間接照明を活かした温かみのある空間。 リビングには、明るいオーク材のフローリングと、 シンプルなラインのソファを中心に、家族が集まりやすい配置を考えました。 壁面は自然光を反射するためのライトグレーのペイント。 昼間でも柔らかな光が部屋全体に広がるようにしています・・」 会長:「北欧スタイルねえ。 良さはわかるんだけど、ちょっと軽くないかね」 女性:「もちろん、会長のおっしゃる重厚感も大切だと考えています。 ダイニングにはウォールナットのテーブルを配置して、 高級感と重厚感を演出しました」 会長:「ウォールナットも悪くないんだけどなあ。 なんかピンとこないんだよ」 女性:「そうですか・・」 男性:「会長」 会長:「ん?きみは?」 男性:「建築士の設計コンサルタントです」 女性:「え?あなた・・・」 プレゼンルームの隅っこから声をあげたのは この前ワークショップにいた青年。 男性:「会長、お孫さんはいらっしゃいますか?」 会長:「ああ、いるよ。まだ小学生だけど」 男性:「さきほど彼女、”家族が集まる場所”って言いましたよね。 ウォールナットは見た目の重厚感だけでなく、 すごく耐久性が高い素材なんです。 例えば、お孫さんがテーブルの上で宿題をしたり、絵を描いたりしても、 傷がつきにくい。 汚れにも強いから、食べこぼしても簡単に拭き取れます」 会長:「ほう」 男性:「それにオーガニックで環境にも優しい。 化学処理が少なく、天然のままの風合いを生かしているので、 お孫さんが触れても安全です」 会長:「なるほど」 男性:「何より、長年使い込むほどに味わいが増します。 家族が集まるたびに、このテーブルに思い出が刻まれていく。 ウォールナットと一緒に家族の年輪を刻んでいってはどうですか?」 会長:「うむ」 女性: 言い終えたあと、彼は一瞬私の方へ視線を送り、ウィンクした。 あのとき私、あんなに厳しいこと言っちゃったのに。 でも、居心地の悪さより、救ってくれた嬉しさの方が勝(まさ)った。 施主も私たちも英顔でプレゼンルームをあとにする。 この一件以来、私と彼の距離は急速に縮まった。 彼は25歳。私よりひとつ年下。 設計コンサルタントとして働きながら、 インテリアデザイナーを目指している。 私たちは食事を共にする仲となり、 コーディネーターとデザイナーとしてリスペクトし合いながら 季節が巡っていった。 <シーン3/1年後のクリスマス>※TMスタート後「え?」が多くてすみません (SE〜街角の環境音/クリスマスソング) 女性:「あのベンチ、なあに?」 男性: 彼女と一緒に過ごすようになってから最初のクリスマス。 インテリアコーディネーターとインテリアデザイナーの デートスポットは・・・ そう、インテリアショップ。 最近の家具屋さんはオシャレなところが多いし、 僕たちはここにいれば、何時間でも過ごすことができた。 女性:「昨日まであんなんなかったよね?」 男性: リビングとダイニングの真ん中。 ベンチは部屋と部屋の間に置かれていた。 女性:「なんか、書いてある・・・ ノルディックベンチ?」 男性:「君の好きな北欧スタイルだね」 女性:「ノルウェーのアルタ。 『北極の町』の教会に置かれていたベンチだって」 男性:「へえ〜。なにか謂れがあるのかな」 女性:「悲恋伝説らしいわ。 その代償として、このベンチに座るカップルは結ばれる・・」 男性: ドキっとした。 実は僕のカバンには、辞令が入っている。 東京支社への転勤の辞令。 僕は今日、それを彼女に告げなければならない。 女性:「どうする?」 男性:「いいじゃん。座ろうよ」 女性:「うん」 男性: 僕がベンチに腰掛けると、 彼女もゆっくりと腰をおろした。 女性:「実はね、話したいことがあるの」 男性:「え・・」 女性:「私、いまの会社、ハウスメーカーに入ってから ずうっと海外勤務希望申請をだしてたの、知ってるでしょ」 男性:「うん・・」 女性:「それがね、急に決まっちゃったのよ」 男性:「あ・・・」 女性:「来年の春、LAに支社を開設するんだって」 男性:「そう・・・」 女性:「申請だしてたのさえ、忘れてたのに」 男性:「よ、よかったじゃないか・・・」 女性:「強制ではないんだけど、独身だと断りにくいから」 男性: 彼女の言葉が途切れたのをきっかけに、僕も彼女に告白する。 男性:「実は僕も君に話があるんだ・・・」 女性:「え・・」 男性:「これを見てほしい」 女性:「なに」 男性: 僕がカバンの中の辞令を彼女に手渡すと・・ 女性:「東京・・転勤・・・?」 男性:「来年早々から」 女性:「本社勤務、ってことは栄転ね」 男性:「まあ、そうなるかな」 女性:「おめでとう」 男性:「いや、いかない」 女性:「え?」 ■BGM〜「インテリアドリーム」

    11 min
  3. ボイスドラマ「家族の食卓/もうひとつの物語」後編

    1D AGO

    ボイスドラマ「家族の食卓/もうひとつの物語」後編

    東京での生活が始まり、紅葉は夢を追いかけて日々奮闘します。けれど、思い描いていた理想と、現実の厳しさは違うもの。そんな中、彼女にとって心の支えとなるのは、先輩との交流、そして父の言葉でした。 「家具は、家族をつなぐもの。」父の仕事に無関心だった紅葉が、ある仕事を通じてその意味を知ることになります。 そして迎える、久しぶりの帰省。紅葉は、父とどんな言葉を交わすのでしょうか。 それでは、後編をお楽しみください。 【登場人物のペルソナ】 ・娘:紅葉(くれは)/声優の卵(21歳)=真面目で一途。子供の頃から声優に憧れ、夢を追いかけて東京へ上京する。感情を表に出すことはあまり得意ではないが、家族への深い思いを胸に秘めている。実家の家具屋で育ったため、無意識に家具に対する愛着があるが、家業を継ぐという両親の期待に反発していた(CV:桑木栄美里) ・先輩:冬紀(25歳)/若手声優=沖縄出身。優しく親切で、自然体で人に接するが、実は沖縄での家族や地元を大切に思っており、東京での生活にも孤独を感じることがある。娘にとって、東京での厳しい生活の中で心の支えとなる先輩。彼の優しさに触れるたびに、紅葉は自分の父の面影を感じ、心の距離が近づいていく(CV:日比野正裕) <シーン1/声優養成所> (SE〜養成所の環境音) 娘: 「おつかれ様でした!」 先輩: 「おつかれ!今日もバイト?」 娘: 「はい!」 先輩: 「たしか・・フィットネスジム・・だっけ?」 娘: 「はい、自由な時間に働けるので助かってます」 先輩: 「だけどあんまり無理しないようにね。 昼も、和食屋さんでお皿洗ってるんでしょ? うちのレッスンは、ダンスもまざってるから体力消耗するし」 娘: 「あ、ダンスは小さい頃から踊ってたんで」 先輩: 「それでも疲れる。人間だから」 娘: 「大丈夫です!」 先輩: 「まあ、若いからがんばれるんだろうけど」 娘: 「ありがとうございます!」 先輩: そういえば、この子、最初の挨拶で面白いこと言ってたよな。 なんだっけな。え〜っと・・ ■一瞬、回想シーン 娘: 「みなさん、はじめまして! 今日から養成所でお世話になります!よろしくお願い申します! 養成所って、私にとっては夢を育てる場所。 だから、”養成”という文字は、フェアリーの”妖精”。 私はいつも脳内変換しています!」 先輩: それで、記憶に残ってるんだよな。 人に覚えてもらう、ってのもこの仕事じゃ重要だから。 実際僕もそれ以降、彼女のこと気になってるんだよな。 <シーン2/夜の渋谷/バイト終わりの紅葉> (SE〜繁華街の環境音) 娘: 「お先に失礼します!」 先輩: 「あれ?」 娘: 「あ、先生!」 先輩: 「おいおいやめてくれよ、こんな往来で”先生”だなんて」 娘: 「だって先生じゃないですか?」 先輩: 「養成所でレッスンしてるってだけだろ。 せめて”先輩”にしてくれ。 僕はまだ25歳なんだぜ」 娘: 「年齢なんて関係ないと思います。 たとえ小学生だって、私の師匠なら”先生”だわ」 先輩: 「そうか。 にしても、遅くまでバイト、がんばってるね」 娘: 「はい。 だって東京って家賃すっごく高いんだもの」 先輩: 「君は東京の人じゃなかったね」 娘: 「そうです、東京でてきてびっくりしました。 バイトしてもバイトしても家賃と授業料に消えていく感じ」 先輩: 「そうだよなあ、駆け出しの声優は結構バイトしてるもんなあ。 ましてや、養成所なら出て行く方が多いだろうし」 娘: 「そうなんです。だから自炊もしてるんですけど 東京は物価も高い」 先輩: 「自炊してるんだ。立派なもんだ」 娘: 「なんで?たんに生活費を浮かすためですよ」 先輩: 「自炊は体にもいいだろ。 とにかく体が一番だからな。 あとは、規則正しい生活を送ること。 ってそれは難しいか。 まあ、無理せずにがんばって」 娘: 「先輩」 先輩: 「ん?なんだ?」 娘: 「先輩って、お父さんみたいですね」 先輩: 「なんじゃ、それ? まだ25だって言っただろ」 娘: 「ふふ」 先輩: 結局、彼女とは、明るい夜の街をいつまでも話しながら歩いた。 話は尽きず、一駅歩くくらいのボリュームだっただろう。 <シーン3/収録スタジオ/初めての仕事> (SE〜スタジオの環境音/「はい本番!はい、キュー!」) 娘: 「家具を選ぶときは、まず目を閉じてください」 先輩: 「はい、閉じました」 娘: 「そこに、家族の笑顔は見えますか?」 先輩: 「え?」 娘: 「それが、家具を選ぶ基準です」 (SE〜スタジオの環境音/「よしOK!このテイクでいこう」) 娘: 「ありがとうございました!」 先輩: 音響監督が笑顔でうなづく。 彼女が声優養成所に通い始めてもうすぐ1年。 養成所から所属へ。 妖精が羽ばたく時期。 初めて彼女に入った仕事は、なんと僕との掛け合いだった。 それは、家具屋さんの企業アニメーション。 どうしてなかなか、いい表現じゃないか。 娘: 「おつかれさまです」 先輩: 「おつかれ。一発オーケーかあ。 すごくよかったよ」 娘: 「本当ですか?」 先輩: 「ああ、レッスンのときより、何倍もいい表情だ」 娘: 「実は・・・うちの実家、家具屋さんなんです」 先輩: 「だから・・・言葉の意味もちゃんと理解してたんだね」 娘: 「はい、家族をつなぐ家具。いつも父が言っている言葉です」 先輩: 「そっか・・・ ねえ、つかぬことを聞くけど・・・ 東京へ来てから、何回実家へ帰ったの?」 娘: 「あ・・」 先輩: 「うん?」 娘: 「一度も帰ってない・・・」 先輩: 「じゃあ、そろそろ帰るタイミングじゃない?」 娘: 「はい」 ■BGM〜「インテリアドリーム」 <シーン4/東京駅/新幹線ホーム> (SE〜新幹線ホームの環境音) 先輩: 仕事ができる人は、行動するのも早い。 次の日の朝、彼女は新幹線のホームに立っていた。 娘: 「先輩、忙しいのにこんなとこにいていいんですか?」 先輩: 「うん、昨日君が明日帰るってきいたら なんだか心配になっちゃってさ」 娘: 「新幹線くらい1人で乗れますよ〜」 先輩: 「いや、そういう話じゃないだろ」 娘: 「やっぱり先輩、お父さんみたい」 先輩: 「はいはい。 じゃあお父さんとようく話してくるように。 東京へ戻ったら、家具の話、食卓の話、聞かせてくれ」 娘: 「了解しました」 先輩: まるでLINEの絵文字のような笑顔で、 彼女は新幹線に乗り込んだ。 遠ざかるのぞみ号の彼方から、お父さんの声が聞こえる・・ ような気がした。 父: 「おかえり」

    8 min
  4. ボイスドラマ「家族の食卓/もうひとつの物語」前編

    1D AGO

    ボイスドラマ「家族の食卓/もうひとつの物語」前編

    「家族の食卓/もうひとつの物語」は、家具職人の父と、声優を夢見る娘の心の交流を描いたものです。「家族の食卓」は、単なる食事の場ではなく、思い出や愛情が積み重なる特別な空間。けれど、親子の関係はいつも順風満帆とはいかず、時にはすれ違い、ぶつかることもあります。それでも、どこかでお互いを思い合っている—そんな二人の物語をお届けします。 本作は 服部家具センター「インテリアドリーム」 の公式サイトをはじめ、SpotifyやAmazon、Appleなど各種Podcastプラットフォームでもお楽しみいただけます。 ◾️登場人物のペルソナ ・娘:紅葉(くれは)/専門学校生(20歳)=真面目で一途。子供の頃から声優に憧れ、夢を追いかけて東京へ上京する。感情を表に出すことはあまり得意ではないが、家族への深い思いを胸に秘めている。実家の家具屋で育ったため、無意識に家具に対する愛着があるが、家業を継ぐという両親の期待に反発していた(CV:桑木栄美里) ・父(59歳)=インテリアショップのオーナー兼家具職人。無口で職人気質、細やかな技術と頑固さを持ち合わせるが、家族への愛情は深い。言葉では多くを語らないが、家具を通じて娘に自分の気持ちを伝えようとしている。娘が家業を継がずに上京することを不安に感じ、心配しながらも彼女の夢を応援したいという気持ちを隠している(CV:日比野正裕) 【Story〜「家族の食卓/もうひとつの物語/前編」】 <シーン1/20歳の食卓> (SE〜食卓の環境音) 父: 「声優・・? そんなフワフワした職業じゃなくて、まじめに将来を考えなさい」 娘: 「別にうわついてなんかいないもん! なんにも知らないくせに」 娘: 売り言葉に買い言葉。 喧嘩なんて、したくもないのに・・ お父さんなんて、大っ嫌い。 父: 「おまえには、いずれうちの家業も継いでもらわないと」 娘: 「継がないから。 私、家具なんて興味ない」 父: 「なんだと」 娘: お父さんったら、言ってることが、まるっきり昭和。 タイムマシンに乗って1970年代に戻ったみたい。 って、生まれる前の時代なんて知らんけど。 父: 「大学を卒業したら家の手伝いを・・」 娘: 「大学卒業したら東京へ行くの」 父: 「と、東京!?」 娘: 「卒業後は1人暮らしするって、ずうっと言ってるじゃない」 父: 「東京なんて聞いてないぞ」 娘: 「東京じゃないと、ちゃんとした声優事務所なんてないもん」 父: 「母さんは知ってるのか?」 娘: 「お母さんにはもう話したから」 父: 「なに・・?」 娘: 「賛成してくれたもん。 お父さんだけだよ。 そんな古臭いこと言って反対してるのは・・ 父: 「うるさい・・」 娘: 怒りの感情は6秒で収まるっていうけれど、 お父さんのテンションもだんだん下がっていく。 結局、私の希望は認められ、晴れて春から1人暮らしとなった。 <シーン2/東京〜アパート探し> (SE〜東京の雑踏) 娘: 「お父さん、 何回も言ってるけど、お部屋くらい自分で探せるって」 父: 「ばか言うな。 なにも知らない田舎者がアパート探そうと思ったって 不動産屋にいいように騙されるだけだ」 娘: 「ちょっと、それ、不動産屋さんで言うせりふ?」 少し困ったような表情を見せたあと、 不動産屋さんは手際よく、いくつか部屋を見せてくれた。 これが、内見、ってやつ? (SE〜鍵を開錠する音) 父: 「ここはだめだ。 リビングが南向きじゃないと、陽も当たらないし、 電気代もかかるからだめだ」 娘: このご予算では、これ以上のお部屋はちょっと・・ と言って、不動産屋さんが口籠る。 結局、4件目の内見でやっと、少しだけ明るい部屋に出会った。 とは言っても、電気が通っていないと、ほんのり暗い。 私は、薄暗い部屋の真ん中に立って、あたりを見回す。 娘: 「ねえ、お父さん。 お部屋って、な〜んにもないと、 こんなに暗くって、寒いんだ」 父: 「ああ、そうだ。 だから、どんな部屋にも、まず食卓を置くんだよ」 娘: 「こんな狭い部屋に食卓なんて置いたら、よけい狭くなっちゃう」 父: 「狭くなるんじゃない。あったかくなるんだよ」 娘: 「え・・」 父: 「別に大きな食卓を置け、って言ってるんじゃない。 2人用でも、木の香りがして、優しい食卓にすれば ここより5度はあたたかくなるぞ」 娘: 優しい食卓? お父さんらしい表現だな。 だけど、私にもわかる。 うちは大家族だったから大きな6人用の食卓。 そこはいつも笑顔と、美味しい香りが溢れていた。 笑い声が飛び交う、暖かい場所。 考えたら、ベランダに面した南向きのリビングより 食卓の方があたたかかった気がする。 父: 「まあ、あとはお前次第だ。 無理せずにがんばりなさい。その・・・なんだ・・」 娘: 「声優?」 父: 「ああ・・。 一生懸命やって、だめだったら戻ってくればいい」 娘: 「また、昭和の言い方して」 父: 「しょうがないだろ。昭和の人間なんだから・・」 娘: 「ねえ、お父さん」 父: 「どうした?」 娘: 「この部屋に合う食卓、選んでくれる?」 ■BGM〜「インテリアドリーム」 父: 「え・・ あ・・わかった。 お前に似合う食卓を選んでやるよ」 娘: 「ありがとう」 父: 「あったかい部屋にするんだぞ」 娘: 「うん」 父: 「ちゃんと自炊して規則正しい生活を送ること」 娘: お父さんが選ぶ、私の食卓。 実物を見なくても、なんとなくわかる。 木の香りが優しくて、 ずうっと座っていたくなる食卓。 目を閉じれば、お父さんやお母さんの笑顔が浮かんでくる食卓。 ほら、笑い声まで聞こえてくる。 夢をかなえるのに一番必要なのは、 やっぱりお父さんの不器用な応援だな。 もう一度言うね。 ありがとう、お父さん。

    7 min
  5. ボイスドラマ「オーロラの彼方に」後編

    3D AGO

    ボイスドラマ「オーロラの彼方に」後編

    前編では、オーロラに魅せられたヒロインと、彼女を想う先輩研究者の静かな交流が描かれました。後編では、物語が大きく動きます。 研究に打ち込みすぎて、自分の体を顧みない彼女。そんな彼女がある日、倒れてしまう…。「オーロラ姫」を救ったのは、科学でもデータでもなく、たった一つの“想い”でした。 この物語は、科学と愛、そして眠りが交差する不思議な縁の物語。果たして、彼女は「本当に安らげる場所」を見つけることができるのでしょうか? 【登場人物のペルソナ】 ・女性(26歳)=大学院生で天文学を専攻。太陽風と地球の磁場の相互作用によって生じるオーロラについての研究に没頭している。最近、研究のプレッシャーと不規則な観測スケジュールにより、睡眠障害に悩まされている。オーロラの研究にのめり込みすぎているため、周りからは尊敬と揶揄をこめて「オーロラ姫」と呼ばれている(CV:桑木栄美里) ・男性(28歳)=女性と同じ大学院で天文学を研究している先輩。博士号終了後も国立天文台からのオファーを期待してポスドク(博士研究員)としてキャリアを積んでいる。「オーロラ姫」のことを慕っているが、なかなか言い出せないでいる(CV:日比野正裕) <シーン1/先端科学研究所> (SE〜ラボの環境音) 女性: 「スーパーカミオカンデからのオファー!?私が?」 男性: 彼女が通常より1オクターブ高い音階で驚く。 まあ、無理もない。 大学が運営する先端科学研究所で天文学を研究して、 去年の年末に、オーロラの出現を予測したんだから。 オーロラ姫の面目躍如だ。 それにしても、スーパーカミオカンデとはね。 東京大学宇宙線研究所が運用する世界最大の宇宙素粒子観測装置。 ニュートリノという素粒子を観測する施設からのオファーか。 期待の高さがわかるってもんだな。 女性: 「去年のオーロラ出現以来、 毎日毎日観測室とデータ解析室の往復を繰り返してるのよ。 睡眠障害だった1年前より、睡眠不足だわ」 男性: そうだった。 オーロラ姫はずうっと睡眠障害で悩んでいたんだ。 彼女の言葉を聞いた僕は、いてもたってもいられなくて いろんな文献を調べたんだっけ。 あ、いや。 彼女のことが好きだとか、そういう直接的な意味じゃなくて。 なんとなく・・・ あれ?やっぱり、好きなのかな・・・ まいいや。 それで結局、治療もさることながら ベッドや寝具も重要、と厚労省のガイドブックにあったから。 足を向けたのが、インテリアショップ。 そこで真っ先に目についたのが、電動リクライニングベッドだった。 高機能なツーモーターでありながらリーズナブル。 これなら研究員の僕でも手が出るかな・・ なんて思ってたらそのネーミングを見て驚いた。 電動リクライニングベッド”オーロラ”。 まるで、僕の心を突き動かすように 目が離せなくなった。 そのとき、同じベッドを見つめていたのが、なんとオーロラ姫。 偶然はドラマを生む。 なんてことはありえないんだな。 そのあと、少しだけ彼女と話し、お茶を飲んで別れた。 彼女と2人っきりの空間で話をしたのは、 あとにも先にもこの日だけ。 僕の思いは、オーロラの光のように、儚く消えていった。 <シーン2/先端科学研究所(実験室)> (SE〜ラボの環境音) 女性: 「あら?今日は先輩と2人だけ?」 男性: え? あ、そうか。 今日は休日だったっけ。 最近はみんな、休日は休んでるからなあ。 当たり前か。 待てよ。 オーロラ姫は・・・彼女は・・ 全然休んでないんじゃないか。 嫌な予感。 不安が心をよぎる。 女性: 「お腹すかない? なんだか血糖値が下がってきちゃったみたい」 男性: 「ああ、もうこんな時間じゃないか。 夢中になって観測してると、時間も忘れちゃうんだな」 女性: 「そうよぉ。 相対性理論でいうタイムマシンの原理ね」 男性: なんか違うような気もするけど。 ああ、体の疲れがピークだ。 力を抜くと瞼が閉じていく。 そのとき・・・ (SE〜人が倒れる音とガラスの割れる音) 男性: 「オーロラ姫!?」 大きな音に目を見開くと・・ 高性能天体望遠鏡が床に倒れ、 その上にオーロラ姫が横たわっていた。 顔色は失せ、急激な発汗と震え。 これは・・・低血糖症だ。 やがて、痙攣が彼女を襲う。 そのまま意識を失った。 少しためらいながら、僕は彼女を抱き起こす。 そのまま仮眠室のベッドへ。 だが、ほどなく、脈が早くなり、呼吸が荒くなる。 そして・・呼吸音は聞こえなくなった。 まずい。 こんなときは・・・ わかっている。大学時代、ライフセーバーをやっていた。 戸惑っているときではない。 オーロラ姫の首を軽く後ろに傾けて、下あごを持ち上げる。 気道を確保してから、唇を合わせて、息を吹き込んだ。 その間に、胸が落ちるのを確認する。 人工呼吸を2回するごとに、呼吸と脈拍をチェック。 僕はオーロラ姫の呼吸が回復するまで人工呼吸を続けた。 <シーン3/病院のベッド> (SE〜心電図の音) 女性: 「起きて・・・ねえ、起きて」 男性: え? ここは・・・病院? 女性: 「あなたまで倒れないでよ」 男性: 思い出した。 僕は、オーロラ姫に人工呼吸で救命措置をしたあと、 救急車を呼んで病院に運んでもらったんだ。 そうか、付き添っているうちに、僕も眠っちゃったんだな。 女性: 「ERドクターに言われたわ。 呼吸が戻ったのは、適切な救命措置のおかげだって」 男性: 救命措置・・・ 女性: 「先輩が迅速に人工呼吸と心配蘇生をしてくれたから 後遺症もなくこうして生きていられるのね」 男性: 「それは・・・たまたま僕が以前ライフセーバーだったから」 女性: 「ううん。 オーロラ姫を死の眠りから目覚めさせてくれたのは 王子様のキスでしょ」 男性: 「え・・・」 ■BGM〜「インテリアドリーム」 女性: 「ありがとう」 男性: 「そんな・・お礼なんて」 女性: 「今度は、起きているときにしてね」 男性: 「ええっ?」 男性: そう言ったあと、彼女はいたずらっぽく笑う。 女性: 「私、もう少し自分の体を大切にするわ」 男性: 「うん。それがいい」 女性: 「ああ、病院の硬いベッドじゃなくて、 おうちのリクライニングベッドで眠りたい」 男性: 「ああ、あれ」 女性: 「そう・・」 2人で: 「オーロラ!」 女性: 「先輩も、ベッド変えたら?」 男性: 「うん、考えてたんだ」 女性: 「先輩の給料なら、もっと上位機種にも手が届くでしょ」 男性: 「いやいや。僕も自分の身の丈に合わせてオーロラさ」 女性: 「へえ〜、そうなんだ」 男性: 「僕は所詮ポスドクだし、研究員の給料なんて君もよく知ってるだろ」 女性: 「じゃあ、2人合算すれば、アップグレードできるかしら」 男性: 「えっ?」 言ったあと、オーロラ姫は下を向いてはにかんでいる。 ひょっとして、僕は王子様になれるのかな。 顔色が戻ってきた彼女の頬は薄紅色に輝いていた。

    10 min
  6. ボイスドラマ「オーロラの彼方に」前編

    3D AGO

    ボイスドラマ「オーロラの彼方に」前編

    オーロラを実際に見たことがありますか?夜空に揺らめく幻想的な光のカーテンは、まるで地球からの贈り物のように美しく、見る者の心を奪います。本作の主人公は、そんなオーロラに魅せられた女性研究者。彼女は科学の視点からオーロラを追い求めていますが、研究に没頭するあまり、睡眠障害に悩まされています。 そんな彼女を密かに見守る先輩研究者との何気ない日常と、ある“運命的な出会い”が彼女の未来を少しずつ変えていきます。 この物語は、天文学と家具が交差するちょっと不思議なラブストーリー。果たして「オーロラ姫」は、心休まる眠りを手に入れることができるのでしょうか? 登場人物のペルソナ ・女性(26歳)=大学院生で天文学を専攻。太陽風と地球の磁場の相互作用によって生じるオーロラについての研究に没頭している。最近、研究のプレッシャーと不規則な観測スケジュールにより、睡眠障害に悩まされている。オーロラの研究にのめり込みすぎているため、周りからは尊敬と揶揄をこめて「オーロラ姫」と呼ばれている(CV:桑木栄美里) ・男性(28歳)=女性と同じ大学院で天文学を研究している先輩。博士号終了後も国立天文台からのオファーを蹴ってポスドク(博士研究員)としてキャリアを積んでいる。「オーロラ姫」のことを慕っているが、なかなか言い出せないでいる(CV:日比野正裕) 【Story〜「オーロラの彼方に/電動ベッド『オーロラ』/前編」】 <シーン1/先端科学研究所> (SE〜ラボの環境音) 男性: 「日本でオーロラ? そんなの・・無理だよ」 女性: 「無理じゃない! だって、最近の太陽フレア、異様に活発化してるの知ってるでしょ」 男性: 「そうだけど、地磁気のデータ見ててもそこまでじゃないと思う」 女性: 「20年前には、実際に観測されてるわ」 男性: 「あのときはすごく長い時間、磁気嵐が吹いてたからね」 女性: 周りのみんなは私を見て笑う。 ここは、大学の先端科学研究所兼観測所。 私は大学院生として天文学を専攻しながら、オーロラの研究に没頭している。 オーロラ。 誰もが知っている、幻想的な大気の発光現象。 太陽風に運ばれたプラズマが電離圏の分子や原子と衝突して発光する。 ”太陽風”なんて、ロマンティックな言葉。 太陽の黒点で爆発が起きると、プラズマが吹き出すの。 真空の宇宙空間を吹き抜けていく”神秘の風”。 太陽の風と地球の磁場が作り出す、光のカーテン。 ああ、だめ。 オーロラのことを話し出すと、止まらないわ、私。 だから、研究所のみんなは、私のことを『オーロラ姫』と呼ぶ。 名前通り、私の研究課題は、オーロラの発生メカニズムとその予測モデルの開発。 どちらも結構いいところまできてるんだけどなあ。 でも私、オーロラにのめり込むあまり、 眠るのを忘れて、いまや睡眠障害。 研究のプレッシャーと不規則な観測スケジュールが原因ね。 男性: 「なんか、顔が疲れてるよ。 大丈夫?オーロラ姫」 女性: あ〜。やっぱ、わかるよねえ。顔に出ちゃうんだもん、疲れが。 彼は天文学の博士号を持つポスドク、つまり博士研究員。 短期契約を結ぶ前は国立天文台の研究機関にいたそうだ。 ま、つまり天文学のエリートね。 天才肌って感じ。 男性: 「今夜はもう帰って休んだら? 明日また夕方からくればいいじゃん」 女性: 「そっか。まあ、昭和じゃないしね。 でも、帰ってもなかなか眠れないんだなあ」 男性: 「不眠症?ストレスで?」 女性: 「う〜ん。 毎日好きな研究に打ち込んでるんだから、ストレスじゃないと思う」 男性: 「好きなことやってたって、こん詰めれば精神はダメージ受けるよ」 女性: 「かもね」 彼は小さく笑って、データ解析室を出ていった。 2歳年上の先輩。 なのに私、タメ口だ。 それは、彼が『みんな仲間なんだからタメ口でいいよ』 って言ったから。 私は、観測室へ行き、大型望遠鏡を覗く。 最近、太陽活動が活発化している。 「太陽フレア」と呼ばれる爆発が、強い太陽風を地球に送り込む。 オーロラが見られるのは、緯度60°から70°の極地だけ。 だけど、異変を感じているのは私だけじゃない。 北海道・陸別町(りくべつちょう)の天文台で働く友達からも連絡があった。 地磁気のデータが面白いことになっているって。 ああ、ちょっと疲れたかも。 帰るか。 でもきっと、帰っても眠れないな。 <シーン2/インテリアショップ> (SE〜インテリアショップの環境音) 男性: 「あれ?」 女性: 「あ・・・」 男性: 「珍しいところで会うね」 女性: そう。ポスドクの彼に会ったのは、インテリアショップ。 ホントは心療内科へ行こうかと思ってた。 でも、言われることはわかりきってるし・・ って思って歩いてたら、目の前にインテリアショップがあったんだ。 で、お店の前のタペストリーの商品が目に焼きついた。 電動リクライニングベッド。 あ、なんか気になる。 しかも、ようく見たらそのネーミングは・・ ”オーロラ” 思わず口角が上がる。 私を呼んでるの? なんて、思ったときに、彼の声が耳に飛び込んできた。 男性: 「そっかぁ。眠れないって言ってたよね。 しかも・・ああ、この名前。 そうかそうか」 女性: 彼も笑いをこらえてる。 いやあね。 私とおんなじとこでハマらないで。 男性: 「ほら、見てみて。 2モーターだって。 背中と脚が別々に動かせるんだね」 女性: ああ、そういうこと? ベストポジションを探れるってことか。 ちょっと脚を高めに上げれば、無重力に近づけるかな。 でもそんな高機能なリクライニングベッドなんて 研究員の薄給じゃ買えないわね、きっと。 男性: 「これなら、僕の給料でも買えそうだ」 女性: あ、ホントだ。 ひょっとして、心療内科へ行かなくて正解だったかも。 ひととおり、リクライニングベッドに寝てみてから 私と彼は、お茶を飲んで別れた。 <シーン3/先端科学研究所> (SE〜ラボの環境音) 男性: 「北海道?」 女性: 「うん。行ってみようと思うの。 さっき所長に言って、思い切って休みをとったから」 男性: 「そうか。観測と解析に明け暮れてたから、いい休息になるんじゃない」 女性: 「だといいけどね」 男性: 「最近、ちょっとだけど顔色も復活したかな?」 女性: おっと。鋭い。 彼と一緒に見つけた、私と同じ名前のベッド。 電動リクライニングベッド『オーロラ』。 あれから速攻で購入したんだ。 なんとなくだけど、睡眠サイクルがよくなった気がする。 男性: 「北海道のどこ?」 女性: 「陸別町(りくべつちょう)。 そこの天文台に友達がいるの」 男性: 「え、それじゃ、仕事と変わらないじゃん」 女性: 「違うわ。気分転換よ」 男性: 「さすが、オーロラ姫だ」 女性: 「ふん。どうせそうよ。 いいの、思いっきりリフレッシュしてくるから。 移動手段なんて、北海道新幹線のグランクラスよ」 男性: 「そ、そんなゴージャスな一人旅なんだ・・」 女性: 「1人って決めつけないで」 男性: 「1人じゃないの・・・?」 女性: 「1人だけど」 男性: 「うん、いいじゃないか。行ってらっしゃい」 女性: 出かける前に見た彼の表情は、暖かかった。 なんだか安心したように。 宣言通り、私は北の大地へ旅立った。 <シーン4/北海道・陸別町の天文台> (SE〜吹雪の音/電話のコール音) 男性: 「おめでとう。君のいう通りだったね。 やっぱり君は、オーロラ姫だ」 ■BGM〜「インテリアドリーム」 女性: 2023年12月1日、北海道で低緯度オーロラが観測された。 肉眼でも確認できるほど、明るい光が夜空を赤く染めていく。 2003年10月以来、約20年ぶりの天体発光現象。 光のカーテンの向こうを ピークを迎えたペルセウス座流星群が光の軌跡を描く。 私は、幻想的な天体ショーに見惚れていた。 それは私の開発した予測モデルが証明された瞬間。 これでまた当分、『オーロラ姫』という称号は消えないな。 ふふ、私らしいわ。 睡眠障害から少しだけ解放された”暁の女神”。   女神からの贈り物は、最高の輝きを放っていた。

    11 min
  7. ボイスドラマ「嫁入りトラックに乗って」後編

    4D AGO

    ボイスドラマ「嫁入りトラックに乗って」後編

    30年の時が流れました。 かつて「嫁入りトラックなんて絶対に嫌!」と叫んでいたハルナも、今や一人の母親。そんな彼女の娘・えみりが、名古屋へと嫁ぐ日がやってきました。 「時代が変わったら、伝統も変わる?」「親の想いは、どうやって受け継がれていくの?」 30年前と今、母と娘、それぞれの立場で迎える“嫁入り”の物語。時代を超えて紡がれる、家族の愛のかたち。どうぞ最後まで見届けてください。 ◾️登場人物のペルソナ(※設定は毎回変わります) ・お嫁さん(23歳)=ハルナ・・・東京の大学時代に知り合った彼と婚約(CV:ハルナ) ・お婿さん(23歳)=マサヒロ・・・浅草生まれ浅草育ちの生粋の江戸っ子(CV:日比野正裕) ・嫁の母(44歳)=エミリ・・・名古屋生まれ名古屋育ち(CV:桑木栄美里) ↓ ・お嫁さん(30年後=54歳)=ハルナ・・・結婚してから30年目。娘が嫁いでいく ・お嫁さんの娘(29歳)=えみり・・・東京の同棲していた彼と結婚して名古屋へ ・娘の彼氏(27歳)=まさひろ・・・娘と同棲していたが心機一転名古屋で彼女の両親と同居へ <シーン1/嫁入りの日> (SE〜菓子まきの音) エミリ: 「嫁入りよぉ〜!」 ハルナ: 「もう、おかあさん!恥ずかしい!」 エミリ: 「なにが恥ずかしいもんかい。 私もここへ嫁ぐ日は、こうやって母さんに送り出してもらったし、 私の母さんも、母さんの母さんに送り出してもらったんだよ」 ハルナ: 「でも、恥ずかしい」 マサヒロ: 「嫁入りよぉ〜!」 ハルナ: 「あなた!」 エミリ: 「あなた、きちゃだめじゃないの、式の前に」 マサヒロ: 「す、すいません。お二人じゃ大変だろうと思って」 ハルナ: 「おかあさん、なにニヤニヤしてんのよ」 エミリ: 「ううん、思い出しちゃってさ。 私が嫁ぐ日の朝、とうさんの家じゃちょっとした騒動が起こってたんだ」 ハルナ: 「どんな騒動?」 エミリ: 「新郎がいなくなったぞぉ、って」 ハルナ: 「ええええええええ?」 マサヒロ: 「それって・・・」 エミリ: 「そう。いまのあなたと同じよ」 ハルナ: 「おとうさんもおかあさんちに来ちゃったんだ」 エミリ: 「うん。でもうちの親はしきたりに厳しかったから、 ”縁起悪い!””式は中止だ!”なんてわめき散らして」 ハルナ: 「おじいちゃん、気が短かったもんねえ」 エミリ: 「おばあちゃんもよ」 マサヒロ: 「はは・・・」 エミリ: 「裏口から、そっと追い出して。 ”いいか、見つかったら問答無用で破談だからな”って」 ハルナ: 「おどしじゃん、それ」 エミリ: 「で、こそこそ抜け出してったら、 近所の子どもに見つかっちゃって」 ハルナ: 「あ〜あ」 エミリ: 「それがね。菓子まきの手伝いだと勘違いされて、 ず〜っと追いかけられたんだって」 ハルナ: 「おとうさんらしい」 マサヒロ: 「ボ、ボク、裏口から出ていきます」 エミリ: 「いいのいいの。あなたは誰にも顔なんて知られていないから。 それに、もうそんな時代じゃないでしょ」 ハルナ: 「おかあさん、なんか、熱でもあるの」 エミリ: 「もう〜」 マサヒロ: 「あのう・・・」 エミリ: 「なあに?」 マサヒロ: 「どうして縁側に家具や着物が置いてあるんですか?」 エミリ: 「ああ、あれ? 本当はね、嫁入りトラックがお婿さんちに着いたら そこの縁側に並べるのがしきたりなのよ」 マサヒロ: 「うちの?」 ハルナ: 「無理じゃん、アパートだし」 エミリ: 「でしょ。 だから、うちの縁側へ置いたの」 ハルナ: 「へええ」 エミリ: 「ご近所さんたちみんなから、 ”立派な桐の箪笥だわ”とか”ええもんしつらえたなあ” とかって、まあ、ものすごい評判よ」 ハルナ: 「おべんちゃら言われて、ご祝儀渡したんでしょ」 エミリ: 「当たり前じゃない。 ほら、あんたたちもこれ持って行きなさい」 マサヒロ: 「なんですか?」 エミリ: 「ご祝儀袋に決まってるでしょ」 ハルナ: 「なんで、そんなもんがいるの?」 エミリ: 「なに言ってんの? 嫁入りトラックは、バックできないって言ったでしょ」 マサヒロ: 「え?」 エミリ: 「だから、細い道とかにさしかかると、周りの車は必ず道を譲ってくれるわ。 そのときに、ご祝儀を渡すのよ」 マサヒロ: 「すっごいなあ」 (※以下カット) ハルナ: 「おかあさん、嫁入りトラックって、まさかあの路地に停まってる?」 エミリ: 「そうよぉ」 ハルナ: 「あの、ガラス張りのトラック〜?」 エミリ: 「もっちろん。 今日は大安吉日だから、空いてるスケルトントラックを見つけるの 大変だったんだから」 ハルナ: 「中の荷物丸見えじゃん」 エミリ: 「だからいいのよ。 こんなに立派な嫁入り道具を持って嫁ぎます、 って道ゆく人みんなにわかるでしょ」 ハルナ: 「いやだぁ〜、そんなの。私、アパートまで歩いていく」 エミリ: 「ばか言わないで。 あなたは、文金高島田で、嫁入りタクシーに乗るの」 ハルナ: 「嫁入りタクシ〜?」 マサヒロ: 「ひょっとして、トラックの後ろに停まってる黒塗りの?」 エミリ: 「ご名答〜。ツバメタクシー呼んどいたから。 後ろの扉が上に跳ね上がって、カツラのままですっと乗り込めるわよ」 マサヒロ: 「ガ、ガルウィングドアって・・・ ランボルギーニか・・・」 ハルナ: 「やだぁ、またまた目立っちゃう」 エミリ: 「ちょっと、しっかりしなさい。 あなた、名古屋の花嫁なのよ。 もっと、胸を張って」 マサヒロ: 「すごいな、名古屋」 エミリ: 「さあ、もう時間よ。 準備しなさい」 ハルナ: 「わかった・・」 エミリ: 「おとうさんの写真も持って」 マサヒロ: 「僕が持ちます」 エミリ: 「ああ、お願いね」 マサヒロ: 「はい!」 エミリ: 「嫁入りよぉ〜!」 マサヒロ: 「嫁入りよぉ〜!」 (SE〜菓子まきの音と近所のみなさんの拍手喝采) (※ここだけ、途中から30年後の娘のモノローグへ) ハルナ: こうして、私は、誉れ高い名古屋の花嫁となった。 時は移り、30年後。 いまはもう、嫁入りトラックも嫁入りタクシーも なくなっちゃったけど、気持ちは変わらない。 <シーン2/30年後/母の家に住む娘は53歳になり、この日子どもが嫁いでいく> (SE〜自宅の雑踏/小鳥のさえずり) えみり: 「ママ、そろそろ時間」 ハルナ: 「もうそんな時間? 早いわねえ」 えみり: 「早くないわよ、ギリギリなんだから」 ハルナ: 「ふふ。早いわよ。時間(とき)が経つのって」 まさひろ: 「こんにちは・・・」 ハルナ: 「来たわねえ、やっぱり婿さんが」 えみり: 「え?」 ハルナ: 「昔はね、式の前にお婿さんが花嫁さんに  顔を見せるのは縁起悪いって言われてたのよ」 まさひろ: 「そうなんですか、すみません」 ハルナ: 「いいのいいの」 えみり: 「そんなの迷信でしょ」 ハルナ: 「そ、迷信。 大切なのは、あなたたちが、どれだけ幸せになれるかってこと」 まさひろ: 「はい」 えみり: 「幸せよ、思いっきり」 ハルナ: 「そうね。 結婚式、私のわがまま聞いてくれてありがとうね」 まさひろ: 「そんな。わがままじゃないです。 おかあさんに、いろいろ全部用意してもらっちゃって」 えみり: 「ちょっとレトロだけどね」 ハルナ: 「だって、決めてたんだもの。 娘が結婚するときは、菓子まきをやって。 みんなで嫁入りトラックに乗って式場まで行くって」 まさひろ: 「楽しみにしてたんですよ、嫁入りトラック。かっこいいなあって」 ハルナ: 「そう?ありがとう」 まさひろ: 「こちらこそ。ありがとうございます!」 えみり: 「トラックじゃないじゃん。ミニバンでしょ。しかもEVの」 ハルナ: 「だって、トラックじゃ揺れるからダメでしょ。 荷物もあなたも」 えみり: 「ひどい、荷物と一緒にしないで」 まさひろ: 「本当に何から何まですみません」 ハルナ: 「さあ、乗って。 おばあちゃんの写真も持って」 まさひろ: 「僕が持ちます」 ハルナ: 「ふふ。それじゃあ行きましょ、3人で」 えみり: 「4人よ、ママ」 ハルナ: 「ああ、そうだったわね。 おめでとう。幸せになるのよ」 (※2人同時に言って笑う) えみり: 「はい!」 まさひろ: 「はい!」 ハルナ: 少しだけ目立つようになったお腹をさすりながら 私とお婿さんに挟まれて、娘の

    9 min
  8. ボイスドラマ「嫁入りトラックに乗って」前編

    4D AGO

    ボイスドラマ「嫁入りトラックに乗って」前編

    結婚。それは人生の大きな節目であり、家族の文化や価値観が交差する瞬間でもあります。 名古屋には「嫁入りトラック」という独特の風習があります。紅白幕を張ったトラックに嫁入り道具を載せ、ご近所に菓子をまきながら、新しい家庭へ向かう――。派手で豪快なこの風習に、「そんなの時代遅れ!」と驚く若者もいれば、「昔は当たり前だったよ」と懐かしむ人もいるでしょう。 この物語は、東京育ちのハルナと、生粋の江戸っ子マサヒロ、そして伝統を重んじる名古屋の母・エミリが織りなす“嫁入り騒動”の一幕です。 「伝統って、なんのためにあるの?」「本当に必要なものって、なんだろう?」 笑いあり、涙ありの家族の物語を、どうぞお楽しみください。 ◾️登場人物のペルソナ ・お嫁さん(23歳)=ハルナ・・・東京の大学時代に知り合った彼と婚約(CV:ハルナ) ・お婿さん(23歳)=ヒビノ・・・浅草生まれ浅草育ちの生粋の江戸っ子(CV:日比野正裕) ・嫁の母(44歳) =エミリ・・・名古屋生まれ名古屋育ち(CV:桑木栄美里) 【Story〜「嫁入りトラックに乗って/婚礼家具/前編」】 <シーン1/自宅リビングにて> (SE〜戸建て/庭に小鳥のさえずり) ハルナ: 「嫁入りトラック〜!? ないないないない。ありえない」 エミリ: 「なにを言ってるの。 結婚するときは、菓子まきをして嫁入りトラック。 あたりまえでしょう」 ハルナ: 「そんな恥ずかしいこと、絶対にいやだぁ」 エミリ: 「恥ずかしいことなんてありません。 みんなやってるんだから」 ハルナ: 「うえ〜ん。あなたも、なんか言ってよぉ」 マサヒロ: 「あのう、おかあさん。 新居のアパート、前の道は細いのでトラックなんて入れないかも・・」 エミリ: 「まだあなたから”おかあさん”と呼ばれる間柄じゃありません!」 マサヒロ: 「す、すいません」 ハルナ: 「あやまらないで〜。しっかりしてぇ。江戸っ子でしょ」 エミリ: 「あなたには名古屋の文化を一度教えてあげないといけないわね」 マサヒロ: 「は、はい」 ハルナ: 「はい、じゃない」 エミリ: 「名古屋人はね、普段は倹約をしてつましく暮らしているの。 だけど、いざというとき。 例えば、娘を嫁にだすときね。 嫁ぐ娘に惨めな思いをさせないために 一生分の荷物を持たせて送り出すのよ。 それが、尾張徳川家のお膝元、名古屋の嫁入りなんです」 ハルナ: 「それ、江戸時代の話でしょ」 エミリ: 「とにかく! 嫁入りするときは紅白幕の嫁入りトラック! 道が細かろうとなんだろうと新居までたどり着きます!」 マサヒロ: 「う・・・」 エミリ: 「これも覚えておきなさい・ 嫁入りトラックっていうのは、どんなに道が細くても、前進あるのみ! 間違ってもバックなんてしませんから!」 ハルナ: 「雨降ったらどうするのよ」 エミリ: 「ハレの日に雨なんて降りません!」 <シーン2/家具屋さんにて> (SE〜家具屋さんの商談デスクにて) エミリ: 「絶対にダメです! 桐箪笥と三面鏡と羽毛布団。 この3つがなくて、娘を嫁に出せますか!」 ハルナ: 「だーかーらー、江戸時代じゃないんだって。           新居だって、戸建てじゃなくて小さなアパートなんだから」 マサヒロ: 「あ、おかあさん。 実は新居には作りつけの収納もあるんです。 それに狭い2DKなんで、箪笥やドレッサーはちょっと・・」 エミリ: 「だからまだ”おかあさん”と呼ばないで!」 マサヒロ: 「す、すいません」 ハルナ: 「毎回謝るなっつーの」 エミリ: 「私も、私の母も、そのまた母も、代々み〜んな 名古屋で生まれ、名古屋で育ったんです。 東京もんの余所者に、名古屋のしきたりについて あれこれ言われたくありません!」 マサヒロ: 「は、はい」 ハルナ: 「ちょっとぉ!しっかりしてよ!江戸っ子なんでしょ」 マサヒロ: 「そんな、君まで江戸っ子とか、時代劇みたいなこと言わないでよ」 エミリ: 「ごちゃごちゃ言ってないで。 ああ、お父さんが生きてたら、こんな、余所者にバカにされることなんて なかったのに。よよよ・・・」 ハルナ: 「やめてよ、おかあさん。 家具屋さんも困っちゃってるじゃん」 エミリ: 「あらそう、家具屋さん。 じゃあさっきの桐箪笥、もういっかい見せてちょうだい」 ハルナ: 「あ〜あ。 ん?ちょっ、おかあさん、これ。よく見てこれ」 マサヒロ: 「お、おお」 ハルナ: 「この値段、わかって言ってるの!? 桁間違えてない?」 エミリ: 「笑止。なに言ってるんだか。 これは一枚板の桐無垢なの。 あなたの孫の代まで使える逸品なのよ」 マサヒロ: 「へえ〜」 エミリ: 「さああなた。 引き出しを開けてみなさい」 マサヒロ: 「は、はい」 ハルナ: 「なに、言うこと聞いてんのよ」 マサヒロ: 「だって・・・」 (SE〜引き出しをすうっと開けて、すうっと閉める=音はしないかも) マサヒロ: 「うわ、すごい」 エミリ: 「でしょう。 引き出しの中に服がぱんぱんに入ってても、 すう〜っと入って、ふわっと出てくるのよ」 マサヒロ: 「ほう〜」 ハルナ: 「感心しないで」 エミリ: 「最高級の桐箪笥だから釘なんて一本も使ってないでしょ」 マサヒロ: 「ほんとだ」 エミリ: 「凹凸の楔を組み合わせて作ってあるの」 マサヒロ: 「そうなんだぁ」 エミリ: 「それに、名古屋の夏は蒸し暑いでしょ」 マサヒロ: 「はい、ちょっとびっくりしました」 エミリ: 「湿度が高いと、服って傷みやすいのよ。 でもね、桐の箪笥は呼吸をしてるから」 マサヒロ: 「呼吸?」 エミリ: 「そうよ。呼吸をする。つまり生きている桐は 箪笥の中の湿度を一年中一定に保ってくれるのよ」 マサヒロ: 「中にしまった服を守ってくれるんですか」 エミリ: 「そうよぉ」 ハルナ: 「もう〜。感心してる場合じゃないでしょ。 値段をもっと見なさい。値段を」 マサヒロ: 「江戸っ子はね、お金にこだわらないんだよ」 エミリ: 「ほお〜」 ハルナ: 「あなた、どっちの味方なの!?」 マサヒロ: 「別に敵味方じゃないでしょ。家族になるんだから。 おかあさんと家具屋さんの話も聞いてみようよ」 エミリ: 「あなた、なかなか話せるじゃないの」 マサヒロ: 「申し訳ありません。出過ぎたことを言って」 ハルナ: 「ほんとにね」 エミリ: 「いい加減にしなさい」 マサヒロ: 「ほかにもあるんですか?」 エミリ: 「嫁入り道具〜?もっちろんあるわよ」 ハルナ: 「ちょっとちょっと。油注いでるって」 エミリ: 「こっち来て。見てみなさい」 マサヒロ: 「三面鏡・・ですか?」 エミリ: 「そう。三面鏡。 鏡はね、正面と右、左にないとだめ」 マサヒロ: 「どうしてですか?」 エミリ: 「着物を着るとき。 三面鏡でないと、後ろの襟元や帯が見えないじゃない。 裾が左右対称になってるか、シワやたるみがないか。 せっかく素敵な着物を着ておでかけしても 後ろ姿が整ってなきゃ台無しでしょ」 マサヒロ: 「なるほど」 ハルナ: 「ふん、着物なんて着ないからいいもん」 エミリ: 「着るわよ」 ハルナ: 「どこで?」 エミリ: 「あなたに子どもが生まれたら? 七五三はお着物でしょ。 入学式に卒業式。 小学校。中学校。高校。大学もかしら」 マサヒロ: 「そうですね」 エミリ: 「成人式は、振袖に訪問着。 親子で着物なんて素敵ねえ。 そのうち、いまのあなたみたいに未来の夫を連れてきて。 結納。結婚式。 着物で行くでしょ」 ハルナ: 「あ・・」 エミリ: 「それから・・・ 私のお葬式」 ハルナ: 「やめてよ!」 ■BGM〜「インテリアドリーム」 エミリ: 「嫁入り道具も、トラックも、菓子まきも み〜んな、あなたに幸せになってほしいから」 ハルナ: 「やめてよ・・・」 マサヒロ: 「ありがとうございます、おかあさん!」 エミリ: 「まだ、おかあさんじゃないでしょ」 マサヒロ: 「はい、すみません」 エミリ: 「女手ひとつでわがままに育てちゃったから きっと手はかかると思うけど、よろしくお願いします」 マサヒロ: 「はい! かならず、かならず、娘さんを幸せに。 約束します!」 ハルナ: 「やめてよ、あなたも・・・」 マサヒロ: 「僕からもお願いしていいですか?」 エミリ: 「なあに?」 マサヒロ: 「嫁入り

    9 min

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インテリアが家族の絆をつむぎだす・・・ハートフルな一話完結の物語を各前後編に分けてお送りします。(CV/ 男性役=日比野正裕、女性役=桑木栄美里)

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