ボイスドラマ〜Interior Dream

Ks(ケイ)、湯浅一敏、インテリアドリーム
ボイスドラマ〜Interior Dream

インテリアが家族の絆をつむぎだす・・・ハートフルな一話完結の物語を各前後編に分けてお送りします。(CV/ 男性役=日比野正裕、女性役=桑木栄美里)

Episodes

  1. ボイスドラマ「ナイトフライト」後編

    2 DAYS AGO

    ボイスドラマ「ナイトフライト」後編

    登場人物 ・彼女(34歳)・・・10年目の客室乗務員。独身/ストレスによる不眠症気味 ・彼(54歳)・・・睡眠外来勤務医/妻とは死別。眠りメカニズムの講演で全国へ 【Story〜「ナイトフライト/ねむりデザインLABO/後編」】 (SE〜機内音+機内アナウンス「ポーン」) アナウンス: 皆さま、当機207便をご利用くださいましてありがとうございます。 日本までの飛行時間は11時間10分を予定しております。 ご利用の際は、お気軽に乗務員に声をおかけください。 それでは、ごゆっくりおくつろぎください。 彼: シートベルト着用のサインが消えると同時に 微かな、本当に微かな寝息が聴こえてきた。 いや、失礼のないように言っておくと、多分一般の人には聴こえない音。 睡眠外来で働く医師でないととらえられない音階かもしれない。 音の主は、通路を挟んだ反対側に座る・・・キャビンアテンダント・・・? ああ、確か・・・デッドヘッドだったか。 勤務中の移動のため、乗客として搭乗する、ってあれだっけ。 紺色のカーディガンの下から覗く航空会社の制服がそれを物語っている。 小さな寝息のリズムのなか、不定期に訪れる不協和音。 睡眠障害、かな。 CAって、きっとストレスも多いのだろう。 知らず知らず、彼女に視線を向けた刹那、瞳がゆっくりと開いた。 彼: 「あの・・・」 自分でも信じられないことだったが、通路越しに彼女に声をかけてしまった。 彼女: 「はい」 彼: その気怠げな声に思わず気圧(けお)される。 不眠症と思しき彼女に対し、気づけば私はひどく饒舌になっていた。 彼女: 「それではまた・・」 彼: 一期一会に感謝して、会話を終わらせると、 もう彼女の方へ向き直る勇気などあるはずもない。 夜間飛行の機内音が子守唄になり、いつしか眠りに落ちていった・・・。 (SE〜飛行機の機内音) (SE〜店内のガヤ) 彼: 帰国してすぐ、私はインテリアショップに足を向けた。 そこには眠りに関する私の論文が展示されている。 不眠の原因や、睡眠の大切さを表示しながら 快眠を誘(いざな)う寝具の選び方。 壁一面に、わかりやすいグラフィックとともにディスプレイされた 眠りの情報たちは、まさにラボ(研究所)のようだ。 その前にたたずみ、ゆっくりイラストや文字を目で追う一人の女性。 白衣、ではなく白いコートを着こなすその姿は・・・ なんと、信じられない偶然が、またしても私の心を震わせた。 彼女: 「あら」 【BGM〜インテリアドリーム】 彼: 「こんな偶然って、あるんですね」 彼女: 「ホントに」 彼: 「ひょっとしたら、あなたの不眠を救え、という暗示なのかもしれませんね」 彼女: 「うふふ」 彼: 「不眠の原因って、」 彼女: 「ベッドとか寝具が原因のこともあるんですよね?」 彼: 「あ、はい・・・」 2人: (笑) 彼: 彼女は笑うと小さなえくぼが現れる。 その笑顔の眩しさに、思わず目を伏せた。 彼女: 「私、寝姿がよくないんです」 彼: 「え?」 彼女: 「っていうか、寝相がとっても悪いの」 彼: 「そ、それは・・・」 彼女: 「これも睡眠障害の原因?」 彼: 「あ、そ、そうかもしれません・・・」 彼女: 「寝返りばっかりうってるし」 彼: 「大丈夫、寝返りにもちゃんと役目があるんです」 彼女: 「枕が合わないっていうのもあるのかしら」 彼: 「枕の高さも大切ですよ」 彼女: 「あとは・・・」 彼: なんだか、私を質問攻めにして、彼女は楽しんでいるように見える。 人生の1/3は睡眠時間。 私はいつもその時間が快適に過ごせるよう、睡眠障害の患者さんに接してきた。 でも今日からは、残り2/3に幸せを見つけるのも悪くない。

    6 min
  2. ボイスドラマ「ナイトフライト」前編

    2 DAYS AGO

    ボイスドラマ「ナイトフライト」前編

    登場人物 ・彼女(34歳)・・・10年目の客室乗務員。独身/ストレスによる不眠症気味 ・彼(54歳)・・・睡眠外来勤務医/妻とは死別。眠りメカニズムの講演で全国へ 【Story〜「ナイトフライト/ねむりデザインLABO/前編」】 (SE〜機内音) 彼女: それは夢だとわかっていた。 霧深い森の中を私は彷徨っている。 このところ、毎晩同じ夢を見る。 確か、ドリームキャッチャーをベッドの上にかけておいたはずだけど・・・。 彼女: 「・・・はっ」 後輩のCAが私の肩に優しく触れる。 そうか。今日はデッドヘッド。ナイトフライトの機内だった・・・。 デッドヘッドというのは、業務外、移動の時間のこと。 後輩は音を立てないよう、静かに会釈をして通路を歩いていく。 そうね、私ったら制服を着たまま微睡むなんて・・・。 彼: 「あのう・・・」 彼女: 「はい?」 話しかけてきたのは、通路を挟んだ反対側のシートに座る紳士。 顔だけこちらに向けて、申し訳なさそうに口を開く。 彼: 「もしかしたら、不眠症ですか?」 彼女: 「え?」 彼: 「いえ、不躾に話しかけたりしてすみません。 実は私、睡眠外来で働いているんです」 彼女: 「お医者様、ですか?」 彼: 「はい。小さなクリニックですが」 彼女: 「どうして私が不眠症だと?」 彼: 「微かな音でしたが、呼吸の乱れがありましたので」 彼女: 「まあ、お恥ずかしい・・・」 彼: 「いえいえ。すみません、つい職業病で」 彼女: 「ふふ・・・。いいんです。その通りですもの」 彼: 「機上の人だから、ストレスとかもいろいろあるのでしょうね」 彼女: 「ええ、でもそれじゃ、プロとして恥ずかしいわ」 彼: 「いいえ、大丈夫。今や日本人の20%が不眠に悩んでいますから」 彼女: 「はあ」 彼: 「ストレスだけじゃなく、ベッドとか寝具が原因のこともあるんですよ」 彼女: 「さすが、お詳しいですね」 彼: 「あ、いや・・失礼しました。お疲れのところを長々と・・・」 彼女: 「大丈夫です。勉強になりました」 彼: 「またいつか、どこかでお会いしたら、この続きをお話ししましょう」 彼女: 「はい、ありがとうございます」 彼: 「こちらこそ」 彼女: はにかみながら向き直った彼は、雑誌を開いて視線を落とした。 すっかり睡魔が消え去った私は、さきほどの夢を思い出していた。 あれはなんだったんだろう・・・ 首を傾げるそぶりをしながら、右側を見ると、 お医者様は雑誌を開いたまま、夢の世界の住人になっていた。 (SE〜飛行機の走行音) (SE〜店内のガヤ) 久しぶりにまとまった休みがとれた土曜日。 私はまっさきにインテリアショップに向かった。 不眠の原因がベッドかも、という彼の言葉が脳裏に焼きついていたからだ。 壁にディスプレイされた睡眠の雑学を読んでいると、 聞き覚えのある声が耳に飛び込んできた。 彼: 「こんにちは」 【BGM〜インテリアドリーム】 彼女: ドラマじゃあるまいし、こんな偶然ってあるのかしら。 そう、話しかけてきたのは、空の上で見かけたあの笑顔。 彼: 「ベッドですか?」 彼女: 「あ、はい。あなたは・・・?」 彼: 「このコーナーで僕の論文を紹介してもらっているんですよ」 彼女: 「まあ」 彼: 「よかったら、この前の話の続き、いかがですか?ちょうど寝具の前だし」 彼女: 「はい。よろこんで」 彼: 「じゃあ、まずは重要なポイント。枕の高さについて・・・」 彼女: 夢の中と同じ笑顔で、彼は寝姿の話とか、マットレスの構造の話とかを 丁寧に話し始める。 考えてみたら、最近夢でうなされることはなくなったような気がする。 あとは寝具を整えれば・・・ うふふ。 人生の1/3は睡眠時間。 1/3が快適なら、残りの2/3も、きっと素敵な時間になりそうね。

    7 min
  3. ボイスドラマ「聖夜の奇跡」後編

    4 DAYS AGO

    ボイスドラマ「聖夜の奇跡」後編

    登場人物 ・彼女(26歳)・・・医薬品メーカー勤務のMR/社会人4年目。仕事に追われる毎日(CV:桑木栄美里) ・彼(24歳)・・・システムエンジニア/社会人2年目。彼女と暮らし始めて半年(CV:日比野正裕) (SE〜街角の雑踏/クリスマスイメージ) 彼女: 「がんばってなるべく早く帰るから・・・」 <BGM〜fantasy-harp-and-irish-300504334.wav> 彼: TV電話に映る彼女の表情は、申し訳なさでいっぱいだった。 彼女は、医薬品メーカーに勤めるMR。 この時期、病床使用率が上がってくると、どうしても忙しくなってくる。 だから、僕たちのクリスマスは、おうちで過ごす”二人だけのクリスマス”。 料理の担当は、もちろん、僕だ。 彼女: 「料理、無理しないでね。私、帰ってから作るから。 クリスマスに怪我なんてしちゃ、いやよ」 彼: ふふん。馬鹿にしないでほしいな。 この日のために、ここ毎日先に家に帰って練習していたんだから。 僕は念入りに部屋の清掃をすますと、クリスマスの食材を探しに街に出た。 断続的に流れる車の中から、煌めくイルミネーションに目をとめる。 そこは、彼女と喧嘩をした日に、偶然見つけたインテリアショップだった。 彼女: 「イルミネーションって、見ているだけであったかくなる」 彼: 「そうだね。喧嘩して凍てついた心も溶けるほどに」 彼女: 「あら、別に私の心は凍りついてないけど」 彼: 「そういうことにしておこうか(笑)」 彼女: 「ユニコーン・・・」 彼: 「え?」 彼女: 「ほら、この絵、ユニコーンじゃない」 彼: 「僕には普通の白馬に見えるけど」 彼女: 「ユニコーンってね、清らかな乙女にしか近寄らないんですって」 彼: 「ふうん」 彼女: 「ノアの方舟にも乗ってたのよ」 彼: 「そうなんだ」 彼女: 「私の元にも来てくれるかしら」 彼: 「も、もちろんだよ。君ならきっと、ユニコーンの背に乗ることだってできるさ」 こうしてクリスタルの白馬、いや、ユニコーンの絵は、 ぼくたちの家にやってきた。 雪解けの笑顔を思い出しながら、僕は駐車場へハンドルを切った。 (SE〜ドアが開く音) 彼女: 「ただいま・・・」 「遅くなっちゃって、ごめんなさい・・・」 「もう、寝てるよね・・・」 彼: 息をひそめた僕に気づかず、彼女はライトのスイッチをつけた。 (SE〜スイッチの音) 彼女: 「あ・・・」 【BGM〜インテリアドリーム】 彼: 「メリークリスマス。 どうかな・・・ホワイトクリスマスに・・・なったかな」 光の中。舞い散る雪のように、煌めくユニコーン。 そしてその横、ひときわ大きな、もうひとつのキャンバス。 ピクチャーレールからワイヤーフックで固定されているのは、 彼女: 「・・・ヘプバーン!」 彼: それは、ユニコーンと同じく、クリスタルで装飾されたヘプバーンの肖像画。 まるで雪が舞っているように、光の結晶が踊っている。 彼女の表情にもみるみる光がさしてきた。 彼: 「君、いつも、ヘプバーンみたいになりたいって言ってたよね」 彼女: 「うん・・・」 彼: 「賢者の贈り物にならないといいんだけど」 彼女: 「ありがとう・・・」 彼女: 「じゃあ私も・・・」 彼: 「え?」 彼女: 「Happy Holidays(ハッピーホリデイ)」 彼: 「これって・・・」 彼女: 「どう?」 彼: 「スマートウォッチ?」 彼女: 「だって、賢者の贈り物になるといけないでしょ」 彼: 「ありがとう」 彼女: 「あなた、プログラマーなんだから役に立ててね」 彼: 僕のピクシーがいたずらっぽく笑った。 クリスタルの光が部屋の温度を上げていく。 今夜は冬の妖精と過ごすあたたかいクリスマスになりそうだ。

    5 min
  4. ボイスドラマ「聖夜の奇跡」前編

    4 DAYS AGO

    ボイスドラマ「聖夜の奇跡」前編

    登場人物 ・彼女(26歳)・・・医薬品メーカー勤務のMR/社会人4年目。仕事に追われる毎日(CV:桑木栄美里) ・彼(24歳)・・・システムエンジニア/社会人2年目。彼女と暮らし始めて半年(CV:日比野正裕) 【Story〜「聖夜の奇跡/IROTTA CHIC/前編」】 (SE〜街角の雑踏/クリスマスイメージ) 彼女: 「眩しい・・・」 <BGM〜a-dark-silent-night-346733592.wav> 思わず口を衝いて出た言葉に、周りを見回した。 ジングルベルの洪水のなか、誰もが足早に家路を急いでいる。 それはショーウィンドウの中で煌めく1枚の絵。 描かれた街にはクリスタルの雪が舞っている。 気がつくと、いつしか私は、絵の中の街を歩いていた。 腕を絡めて歩くのは・・・あ、パートナーの彼。 え?彼と私、さっきまで喧嘩してたんじゃなかったっけ? 彼: 「疲れてない?」 彼女: 「大丈夫」 彼: 「この先にあるお城のライトアップを見に行かないか?」 彼女: お城?ライトアップ? そんなもの、この街にあったっけ? 彼: 「しっかりつかまって」 彼女: え?バイク? いつの間にか私たちは、クリスタルに包まれたバイクに乗っている。 彼: 「少し飛ばすよ」 (SE〜バイクのエンジンをかける音〜バイクの走行音) ※ここはイメージなのでバイク音にかぶっても大声で話さなくてよい <BGM〜christmas-eve-347253497.wav> 彼女: タンデムなんて、何十年ぶりかしら? よかった、スキニージーンズを履いてて・・・ ってあれ?私、今日、仕事だからスーツだったはず。 まあ、いっか。 彼がエンジンブレーキをかけるたびに、 クリスタルが散らばり、街が煌めいていく。 彼女: 「きれい・・・」 彼: 「だろう?でもお城はこんなもんじゃないからな」 彼女: 「ねえ」 彼: 「なんだい?」 彼女: 「さっきはごめんね・・・」 彼: 「なに?」 彼女: 「電話で喧嘩、しちゃって」 彼: 「え?なんのこと?」 彼女: 「クリスマスの約束のこと」 彼: 「クリスマスの約束?」 彼女: 「とぼけないでよ。 来週のクリスマスを白銀の世界で過ごすって約束。 私、仕事でいけなくなっちゃったから」 彼: 「なにを言っているんだい?クリスマスは今日だろ。 ほら、こうして一緒にいるじゃないか」 彼女: 「え・・・」  <BGM〜christmas-fairytale-346742679.wav> ほどなく、煌めきに満ちたクリスタルのお城へ到着した。 夜空に舞うのは、クリスタルの雪。 彼の肩に頬をよせながら、私の意識は光と同化していった・・・。 (SE〜街角の雑踏) 彼: 「お嬢さん、そんな格好じゃ風邪ひきますよ」 彼女: 「あ」 【BGM〜インテリアドリーム】 彼女: クリスタルの夢から私を連れ戻したのは、やっぱり彼だった。 彼: 「さっきは、電話でごめんね」 彼女: 呆然と立ち尽くしていた私の後ろで 落ちかけた私のジャケットをかけ直しながら、 彼: 「考えたんだけど、クリスマスはおうちで過ごさないか?」 彼女: 言葉に出しながら、彼がはにかむ。 彼: 「何時になってもいいから、一緒にクリスマスを祝おう」 彼女: 凍てついた私の表情もゆっくりと溶けていく。 彼: 「あ、料理も僕が準備する」 彼女: 「ホワイトクリスマスにして」 彼: 「え」 彼女: 「あれ」 彼: 「ああ!」 彼女: 視線の先にあるクリスタルの絵を見て彼の顔がほころぶ。 彼: 「オッケー。さあ、寒いからお店の中に入ろう」 彼女: 入口にディスプレイされた煌めく絵画たち。 まるで宝石のような光の中を抜けて、 私たちはインテリアショップへ入っていった。 彼女: 「こたつも必要かも」 彼: 「あったかいクッションも」2人: 笑

    6 min
  5. ボイスドラマ「2人のホームオフィス」後編

    6 DAYS AGO

    ボイスドラマ「2人のホームオフィス」後編

    登場人物 ・男性(34歳)・・・グラフィックデザイナー、彼女とは仕事で知り合い一緒に暮らす(CV:日比野正裕) ・女性(36歳)・・・マーケティングディレクター。彼に仕事を発注するマネージャー(CV:桑木栄美里) 【Story〜「2人のホームオフィス/彼女」】 彼: 「いいかい、インテリアにはいろんな物語が隠れているんだよ」 彼女: 突然、彼が語り出す。 ひとりごとではなく、腕に抱いた赤ちゃんに向かって語り出す。 半年前この世界にやってきた、小さな小さな命。 やっと授かった、私にとっても、彼にとっても、大切な宝物。 彼: 「たとえば、ほら。この焦香(こがれこう)のデスク」 彼女: そんな、難しい日本語。私でもわからないのに・・・。 彼はグラフィックデザイナー。 いま手がけているワークで、日本の伝統色を扱っているらしい。 彼: 「パパとママはここに置いてあるパソコンの中で知り合ったんだよ」 彼女: やめてよ。まるで、出会い系サイトで知り合ったみたいじゃない。 私たちは、あるプロジェクトのリモート会議で知り合った。 参加者全員がオンラインから退出したあとに、 なぜか彼と私だけが居残っちゃったんだっけ。 彼: 「あのときのママの顔、可愛かったなあ」 彼女: いまは可愛くないってこと? これ以上言ったら、あなたにおむつ全部取り替えてもらいますからね。 彼: 「ママがね、突然パパを食事に誘ったんだ」 彼女: いい加減なこと言わないで。 あなたが、いきなりアドレス交換しようって言ってきたんじゃない。 まあ、迷いながらも教えちゃったけど・・・ 彼: 「最初にママをエスコートしたのは、ホテルのディナーコース」 彼女: ホテルのカフェのアフタヌーンティースイーツでしょ。 彼: 「パパはグラフィックデザイナー、っていうお仕事だから ママのプロジェクトの重要なビジュアルイメージをデザインしたんだ」 彼女: ま、それは当たってるか。 彼: 「ママはパパのビジュアルを見て、感動して涙が止まらないって言ってた」 彼女: 言ってない、言ってない。そこまでじゃあ、なかったかな。 彼: 「初めてママがパパのおうちに来たのは君が生まれる半年前だよ」 彼女: いやあね。計算が合わないじゃない。 彼: 「パパのホームオフィスを見たママは感動して、 パパをインテリアショップへ連れていったんだ」 彼女: そんな、感動ばっかりしないから。 それに感動したんじゃなくて、あきれたの。 オトコの一人暮らしってろくなもんじゃないって思ってたけど、 インテリアデザインの才能なさ過ぎ。 デザイナーなのに、レイアウトやバランスくらい考えてほしかったのよ。 彼: 「ママが選んでくれたのは、この百入茶(ももしおちゃ)のワークチェアと 紅消鼠(べにけしねずみ)の収納用チェスト」 彼女: あら、そうだったかしら。 彼: 「伝統色を使う、というのもママのアイデアなんだ」 彼女: え・・・。そう・・・だ・・・った・・・っけ・・・ 彼: 「ママはね、いつだってパパに最高のインスピレーションを与えてくれる 女神なんだ」 彼女: もう、私が聞いてるの、わかってて言ってるんでしょ。 彼: 「だから君は女神の子ども、キューピッドだよ」 彼女: ・・・ったく、女神の子どもなら、アポロンとかペルセウスでしょ。 いつだってツメが甘いんだから。 彼: 「パパはねえ、ママにずうっと恋焦がれてるんだよ これがその証拠さ」 彼女: え・・・? それって、私がいつもショーウィンドウで見ていたストーンリング・・・? こんなサプライズ、ずるい。 でも、ありがとう・・

    6 min
  6. ボイスドラマ「2人のホームオフィス」前編

    6 DAYS AGO

    ボイスドラマ「2人のホームオフィス」前編

    登場人物 ・男性(34歳)・・・グラフィックデザイナー、彼女とは仕事で知り合い一緒に暮らす(CV:日比野正裕) ・女性(36歳)・・・マーケティングディレクター。彼に仕事を発注するマネージャー(CV:桑木栄美里) 【Story〜「2人のホームオフィス/彼」】 彼女: 「ねえ、雷乃収声(かみなりすなわちこえをおさむ)って知ってる?」 彼: キッチンで食材を調理しながら、彼女が呟く。 別に答えを求めているわけではない。 それに、そんな難しい言葉。マーケターの彼女じゃないとわからない。 彼女: 「雷が鳴り響かなくなる季節ってこと。 ほら、夏の間、ゴロゴロ鳴って夕立を連れてきた雷も最近、ならないでしょ」 彼: なるほど。さすが僕のパートナー。 仕事でもプロジェクトマネージャーをこなすだけあって 説明もうまいなあ。 彼女: 「同じ言い方でね、楓蔦黄(もみじつたきばむ)って言うのもあるの。 そのままの意味だけど、楓(かえで)や蔦の葉が赤や黄色に色づく季節ってこと。 もうすぐ街路樹も色づいて、街は鮮やかな朱(しゅ)を身に纏うわ」 彼: そういえば彼女、一年のうちで秋が一番好きだって言ってたっけ。 白い季節が来る前の、山吹と真紅のハーモニー。 僕も秋が好きなんだ。 彼女: 「この部屋のインテリアも衣替えしなくちゃ。 あなたの好きな伝統色のアースカラーからウォームカラーへ」 彼: 最初に伝統色が好き、って言ったのは君の方だからね。 オッケー、週末は彼女を誘ってインテリアショップへ行くとしよう。 彼女: 「秋から冬にかけては、霎時施(こさめときどきふる)季節っていうくらいだから 湿気に強いレザーのソファにしましょうか」 彼: そうか、ファブリックのこのソファ、夏の日差しでくたびれちゃったかも。 ちょっと上質なレザーをアウトレットで選ぶとするか。 彼女: 「ああ、それか、脚の長い北欧系の皮張りソファもいいなあ。 湿気対策に効果的なフォルムをしているのよ」 彼: へえー、そうなんだ。 彼女: 「ああ、そうだ、収納家具も引き出し付きの清潔感あるタイプにしましょ。 ポスターとかいろいろ、あなたの書類、意外と多いんだから」 彼: ああ、いつもデスクに出しっぱなしにしていたポスターやチラシ、 彼女が片付けてくれてたんだ・・・ 彼女: 「TVボードも香りが素敵な無垢の素材がいいわ。 まあ、どうせ観るのは、あなたの好きなSF映画ばかりでしょうけど」 彼: いや、君の好きなラブストーリーだって一緒に見てるじゃないか、 3回に1回くらいは・・・ 彼女: 「それから・・・フローリングにラグもひかないと」 彼: あれ、ラグは好きじゃないって言ってたじゃないか。 フローリングを裸足で歩く感触がいいんだって・・・ 彼女: 「あと、ちょっとした時間にさっと眠れるようにソファーベッドも。 ロータイプにすれば床に落ちても大丈夫ね」 彼: 大丈夫、って誰が? 彼女: 「最後にベビーベッド、かな」 彼: え・・・ベビーベッドって、 まさか、え?・・・ 「本当なの!?」 彼女: 「・・・うん。会えるのは夏よ。獅子座かな」 彼: 「そっかぁ、よかった!ホントによかった! 彼女: 「やだ、なにウルウルしてんの? これからもいいデザイン、いっぱい描いて幸せにしてよ」 彼: 「泣くわけないだろ!」 もちろん、泣いていた・・・ スヤスヤと眠る赤ちゃんと、それ見守るパパとママ。 僕は、頭の中に、そんな微笑ましいイラストを描いていた。 僕たちの前に 天使が舞い降りてくるまで、 僕のイラストはソフトで穏やかなタッチに変わるだろう。

    5 min

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インテリアが家族の絆をつむぎだす・・・ハートフルな一話完結の物語を各前後編に分けてお送りします。(CV/ 男性役=日比野正裕、女性役=桑木栄美里)

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