ジョーシスサイバー地経学研究所(JCGR)

ジョーシスサイバー地経学研究所

ジョーシスサイバー地経学研究所(JCGR)が「サイバー地経学」の視点から発信するポッドキャスト。サイバーセキュリティ、地政学、経済・マーケット、各国事情に精通した専門家をゲストに招いた対談や、JCGRによる独自研究の解説を配信しています。毎月、第2・第4金曜日の朝に配信。

  1. 1D AGO

    【前編】経済安全保障時代のインテリジェンス〜その本質とサイバー空間の挑戦(ゲスト:稲村悠 日本カウンターインテリジェンス協会 代表理事)

    経済安全保障リスクが経営の根幹を揺るがす時代、企業は押し寄せる情報の波をいかに乗りこなし、羅針盤とすべき「知」を手にすることができるのでしょうか。「インテリジェンス」という言葉は頻繁に聞かれるようになりましたが、その本質的な意味や実践方法について、いまだ理解が進んでいません。ただ情報を集めるだけの活動で、激化する国際競争や地政学リスクの荒波を乗り越えることはできるのでしょうか。 今回は、日本カウンターインテリジェンス協会代表理事の稲村悠さんをゲストにお招きし、「企業インテリジェンス」の核心について、サイバーセキュリティの視点を交えつつ解き明かします。 前半は、単なる情報収集にとどまらない戦略的な「インテリジェンス・サイクル」の重要性から 、OSINT(公開情報)やフェイクニュースが氾濫する「ポスト・トゥルース」時代に求められる情報の「目利き」について議論しました。 ■□ ハイライト □■ インテリジェンスの本当の意味: 「インテリジェンス」とは、単なる情報収集活動ではありません 。知識・活動・組織という3つの側面からその本質を解き明かし 、企業の意思決定に貢献するための戦略立案から分析、活動展開までを含んだ一連のサイクルこそが重要であると解説します 。 「ニュースクリッピング」の罠: なぜ目的のない情報収集は失敗に終わるのか 。企業の具体的なニーズや戦略と結びつかないまま、ただ地政学ニュースを集めて報告するだけでは、価値あるインテリジェンスにはならないという典型的な失敗例を挙げ、その構造的な問題を考察します 。 情報化時代のパラドックス: サイバー空間の発達で情報が氾濫する現代において、なぜ「旧来のインテリジェンスサイクル」が逆に価値を帯びるのか 。誰もが情報にアクセスできる時代だからこそ、要求・収集・分析・報告という規律あるプロセスが、組織の混乱を防ぎ、情報を真の洞察へと昇華させる生命線となることを語ります 。 ポスト・トゥルースを乗りこなす: フェイクニュースや出所の怪しい情報が溢れる中で、企業はどのように真実を見抜けばよいのでしょうか 。声の大きい情報が真実を覆い隠す「ポスト・トゥルース」の時代を乗り切るための情報の「目利き」の重要性と、その防衛策としてのインテリジェンスの役割を解き明かします。 <ゲスト・プロフィール> 稲村 悠(いなむら・ゆう)さん  日本カウンターインテリジェンス協会 代表理事、Fortis Intelligence Advisory株式会社代表  大卒後、警視庁に入庁。刑事課勤務を経て公安部捜査官として諜報事件捜査や情報収集に従事した経験を持つ。警視庁退職後は、不正調査業界で活躍後、大手コンサルティングファーム(Big4)にて経済安全保障・地政学リスク対応に従事した。その後、Fortis Intelligence Advisory株式会社を設立。世界最大級のセキュリティ企業と連携しながら経済安全保障対応や技術情報管理、企業におけるインテリジェンス機能構築などのアドバイザリーを行う。著書に『企業インテリジェンス』(講談社)、『カウンターインテリジェンス──防諜論」(育鵬社)、『元公安捜査官が教える 「本音」「嘘」「秘密」を引き出す技術』(WAVE出版) ■□ 収録後記 □■ 稲村さんとのお話を通じ、「インテリジェンス」という言葉が持つ本来の重みと深さを改めて痛感しました。それは単なる流行りのビジネス用語ではなく、組織の意思決定の質を左右する極めて体系的な営みです。 特に印象的だったのは、情報が民主化された現代において、最新のツールを追い求めること以上に、むしろ規律ある古典的なプロセスに立ち返ることの重要性を指摘された点です。目的なく集められた情報はノイズでしかないというお話は、日々大量の情報に接する我々全員にとって、耳の痛い真実だったのではないでしょうか。 また、「ポスト・トゥルース」という言葉に象徴されるように、何が真実かを見極めること自体が困難な時代になっています。そうした中で、情報源を問い、論理的な裏付けを求めるというインテリジェンスの基本作法は、ビジネスの世界だけでなく、我々が社会と向き合う上でも不可欠な作法なのだと感じました。 今回の前編は、後編で語られる具体的な脅威を理解するための重要な土台となります。自社の「知」のあり方を見つめ直すきっかけとして、ぜひお聴きいただければ幸いです。 なお、稲村さんの新刊「謀略の技術-スパイが実践する籠絡(ヒュミント)の手法」は9月8日に発売予定です! (ホスト:JCGR 川端隆史)

    22 min
  2. AUG 7

    地政学リスク×サイバーセキュリティ:世銀MIGA担当者が語る新興国ファイナンスの最前線

    新興国ファイナンスと地政学リスクの最前線に、サイバーセキュリティはどのような影響を与えているのでしょうか。インフラ投資や資源開発といった巨大プロジェクトは、従来からクーデターや紛争、契約不履行などの「政治リスク」と隣り合わせでした。しかし、デジタル化が加速する現代において、そのリスクの様相は大きく変化しています。 今回は、世界銀行グループの多数国間投資保証機関(MIGA)で東アジア太平洋地域代表を務める林田修一さんをゲストにお招きし、新興国ファイナンスの現場で起きている地政学リスクのリアルな変化を深掘り。国家の意思決定を左右する「ポリティカルウィル」の重要性から、海底ケーブルやデータセンターが新たな標的となるサイバー空間の脅威まで、国際金融のプロフェッショナルが見るリスクの本質に迫ります。 ■□ハイライト □■ 教科書には載っていないリスクの捉え方: 一般的な格付けだけでは見えない、新興国投資の真のリスクとは何か 。プロジェクトの優先順位や、国のトップが持つ「ポリティカルウィル(政治的意思)」が、事業の成否を分ける重要性を解説します 。 国際機関MIGAの役割: 民間の保険ではカバーしきれない政治リスクに対し、世界銀行グループの一員であるMIGAが果たすユニークな役割に迫ります 。単なる保険金の支払いにとどまらず、政府との対話を促し、長期的な関係を構築することで投資家と投資先の国、双方の利益を守るメカニズムを語ります 。 サイバー空間がもたらす新たな脅威: 従来の港湾や空港に加え、海底ケーブルやデータセンターといったインフラが、物理的な破壊やテロの新たなターゲットになっています 。地球の裏側からでも攻撃可能なサイバーリスクが、新興国のインフラファイナンスに与える具体的な影響を考察します 。 エネルギーインフラと国家の依存リスク: 電力やガスを隣国と融通し合う「パワープール」や「ガスパイプライン」は、効率的である一方、政治的な関係が悪化した際に安定供給を脅かす「依存」というリスクを内包します。LNGのように多様な調達先を持つことの戦略的な重要性を、地政学的な視点から解き明かします 。 <ゲスト・プロフィール> 林田 修一(はやしだ・しゅういち)さん 世界銀行グループ・多数国間投資保証機関(MIGA)東アジア太平洋地域代表としてシンガポールに駐在。これまで、海外のエネルギー・インフラ分野のプロジェクトファイナンス、アジアの金融機関の買収、アフリカの途上国向け政治リスク保険などを担当。以前は日本のメガバンクで投資銀行業務に従事。米国公認会計士、証券アナリスト、英国仲裁人協会会員(MCIArb)。 ■□ 収録後記 □■ 収録を終え、新興国への投資リスクというテーマが、サイバー空間の広がりによって、かつてないほど複雑で多層的なものになっていることを痛感しました。 林田さんのお話から見えてきたのは、クーデターや紛争といった従来の「わかりやすい」リスクに加え、目に見えないところで国家の生命線を脅かす新たな脅威の存在です。特に、海底ケーブルやデータセンターが物理的な破壊の対象となり得るという指摘は、デジタルインフラの脆弱性を浮き彫りにしました 。これは、インフラファイナンスの世界と我々が取り組むサイバーセキュリティが、もはや不可分であることを示唆しています。 また、印象的だったのは、経済合理性や机上の分析だけでは測れない政治的要素の重要性です。国のリーダーがそのプロジェクトをどれだけ重要視し、本気で守ろうとしているか。この極めて人間的な要素が、最終的なリスクを左右するというお話は、グローバルビジネスに関わる全ての人にとって示唆に富むものだったのではないでしょうか。 一見すると遠い世界の話に聞こえるかもしれませんが、エネルギーやデータの依存リスク、サプライチェーンの脆弱性といったテーマは、そのまま日本が抱える課題にも繋がります。今回の放送が、皆様にとって、国際情勢のリアルな力学と、それに備えるための視座を得る一助となれば幸いです。 (ホスト:JCGR 川端隆史)

    43 min
  3. JUL 24

    【後編】ホワイトハッカー西尾素己氏が語る「なぜセキュリティ投資は無駄になるのか?SaaS選びとガバナンスの罠」

    「ロシアはランサムウェア攻撃グループと密約を結び、中国は大学でサイバー攻撃を教え、アメリカは天才ハッカーを司法取引でリクルートする」—。これはSF映画の話ではありません。日本の「能動的サイバー防御」を議論する上で、避けては通れない世界の現実です。 前回に引き続き、ホワイトハット(ホワイトハッカー)として著名な東京大学先端科学技術研究センター客員研究員の西尾素己さんをゲストにお招きしたセミナーの模様をお届けします。今回は、西尾氏とJCGR川端との対談パートです。 日本の常識を揺るがす海外のサイバー戦の実態から、企業が明日から実践できる具体的な防衛策まで、さらに深く掘り下げます。「セキュリティ対策に多額の投資をしているのに、なぜか不安が拭えない」—。その答えは、意外にも「ガバナンス」という基本にありました。 前編の講演パートは下記からアクセス Spotify | Apple JCGR Podcast ホームページ ■□ 収録後記 □■ 西尾さんとの対談を終え、日本の「常識」がいかに世界の「非常識」であるかを突きつけられ、一種のめまいにも似た感覚を覚えました。ロシアがランサムウェア集団と手を組み、中国が国策としてハッカーを量産する。そんなSFのような話が、ビジネスの裏側で厳然として存在する事実に、改めて襟を正す思いです。 その上で西尾さんが繰り返し訴えられていたのは、「高価なセキュリティ製品を買う前に、まずガバナンスを整備すべき」という、極めてシンプルかつ本質的なメッセージでした。安易なSaaS選びや管理の甘さが原因で、情報漏洩のリスクを高め、さらには内部不正が起きても法的に戦うことすらできない。この現実は、多くの企業にとって耳の痛い話でしょう。 対談中に語られた「セキュリティ担当役員になったがために、人生を狂わされた役員」のエピソードは、他人事ではありません。セキュリティをコストとしか見なさない経営陣の下では、誰もがその役を押し付けられ、いつか破綻する時限爆弾を抱えることになります。 今回の対談は、セキュリティ対策の前提を根底から見直し、真に守るべきものは何かを考える、全てのビジネスパーソンにとっての必修科目だと確信しています。 <ゲスト・プロフィール> 西尾 素己(にしお・もとき)さん 東京大学 先端科学技術研究センター 客員研究員 幼少期より世界各国の著名ホワイトハットと共に互いに各々のサーバーに対して侵入を試みる「模擬戦」を通じてサイバーセキュリティ技術を学ぶ。2社のITベンチャー企業で新規事業立ち上げを行った後、国内セキュリティベンダーでAndroidアプリから官公庁の基幹システムまで幅広い領域への脅威分析と、未知の攻撃手法やそれらに対応する防衛手法の双方についての基礎技術研究に従事。2016年11月よりコンサルティングファームに参画。2017年にサイバーセキュリティの視点から国際動向を分析するYoung Leaderとして米シンクタンクに着任。 (ホスト:JCGR 川端隆史)

    33 min
  4. JUL 10

    【前編】ホワイトハッカー西尾素己氏が語る「情シスは“最前線”。能動的サイバー防御とSaaS管理の重要性」

    5月16日に成立した「能動的サイバー防御(ACD)」法。これは、政府がサイバー攻撃の兆候を事前に察知し、攻撃者を無力化することを可能にするという法律です。しかし、その実態と企業への影響は、まだ広く理解されていません。攻撃者を「ハッキングし返す」ことも辞さないこの法律は、会社のセキュリティ体制にも、これまでにない形で影響を及ぼす可能性があります。 今回は、東京大学先端科学技術センター客員研究員で著名なサイバーセキュリティの専門家である西尾素己さんをゲストにお招きし、このACD法のポイントと、企業が直面する新たなリスクについて解説したJCGRセミナーの模様をお届けします。政府が想定するサイバー攻撃と現実の間にあるギャップとは? そして、なぜSaaSの不適切な管理が、自社を意図せず国のサイバー防衛の「標的」にしてしまう可能性があるのか? 専門家の視点から、その核心に迫ります。 <ゲスト・プロフィール> 西尾 素己(にしお・もとき)さん 東京大学 先端科学技術研究センター 客員研究員 幼少期より世界各国の著名ホワイトハットと共に互いに各々のサーバーに対して侵入を試みる「模擬戦」を通じてサイバーセキュリティ技術を学ぶ。2社のITベンチャー企業で新規事業立ち上げを行った後、国内セキュリティベンダーでAndroidアプリから官公庁の基幹システムまで幅広い領域への脅威分析と、未知の攻撃手法やそれらに対応する防衛手法の双方についての基礎技術研究に従事。2016年11月よりコンサルティングファームに参画。2017年にサイバーセキュリティの視点から国際動向を分析するYoung Leaderとして米シンクタンクに着任。 ■□ 収録後記 □■ 西尾さんのお話を伺い、能動的サイバー防御(ACD)法を背景に、私たち企業側の意識を根本から変えなければならないと痛感しました。 これまでのセキュリティ対策は、自社を守るためのものでした。しかしACD法の登場により、自社のセキュリティ不備が「国の資産を危険に晒した」と見なされ、糾弾されかねない時代に突入したのです。レピュテーションを大きく損なうリスクがあるという指摘は、非常に重く響きました。 そして、その対策の核心が、意外にも身近な「SaaS管理」にあるという事実は、多くの情報システム担当者にとって光明であると同時に、新たな責務の重さを示すものでしょう。従業員が何気なく使っているSaaSの公開設定ミスが、国の安全保障を揺るがすインシデントの起点になることすらあります。こうした視点を理解し、自社のSaaS利用を可視化・統制することが、今、最も費用対効果の高い「国防」なのかもしれません。 ACD法は、リスクであると同時に、日本のサイバーセキュリティ能力を民間から底上げする好機でもあります。西尾さんのお話は、その両側面を冷静に見据え、私たちが今何をすべきかを指し示してくれる、大変示唆に富む内容でした。 (ホスト:JCGR 川端隆史)

    38 min
  5. JUN 26

    情シス部門長経験者が語る、水インフラ防衛とデジタル化の最前線(ゲスト: 原田篤史 ウォーターデジタル代表)

    私たちの生活に不可欠な「水」。蛇口をひねれば当たり前に出てくるその水が、今、サイバー攻撃という見えない脅威に晒されています。普段意識することの少ない水インフラの裏側では、施設の老朽化とデジタル化の遅れという深刻な課題が進行しており、私たちの安全を根底から揺るがしかねない状況です。 今回は、水インフラとデジタル化の専門家であり、かつ、企業で情報システム部門長の経験もあるウォーターデジタル合同会社代表の原田篤史さんをゲストにお迎えしました。国内外の事例を基に、水インフラが直面するサイバーセキュリティのリアルと、その未来について深掘りします。 日本の大手企業が海外子会社で受けたランサムウェア攻撃から、アメリカの浄水場が制御システムを乗っ取られ、水道水に危険なレベルの化学物質を混入されかけた事件まで、具体的なケーススタディーを通して、私たちが学ぶべき教訓を紐解きます。 ■□ハイライト □■ 日本の大手企業が受けたサイバー攻撃の教訓: 海外子会社のM&A(合併・買収)時に見落とされがちな「サイバーデューデリジェンス」の重要性とは? サプライチェーン攻撃の起点となりうる海外拠点のIT管理の難しさと、ゼロトラストに基づいた本社側の先進的な対策が被害を食い止めた事例を解説します。アメリカ浄水場攻撃事件の恐怖: ある町の水道水が、ハッカーによって意図的に汚染されかけた事件の詳細に迫ります。古いOSを使い続けた1台のPCが侵入経路となり、遠隔操作で塩素の注入量を危険なレベルに変更。「無色透明」な水の脆弱性と、生活に直結する重要インフラ防衛の課題を浮き彫りにします。忍び寄る「老朽化」という危機: 日本の水道インフラの多くは、高度経済成長期に建設されてから約50年が経過し、更新時期を迎えています。熟練技術者の退職と「紙文化」による運用のブラックボックス化が進み、事故が頻発する「臨界点」に達している現状を警告します。デジタル化が拓く未来と新たなリスク: 紙の日報や図面をデータ化することで、AIによる老朽化の予測や、技術継承が可能になります。一方で、安易なデジタル化はアメリカの事例のように新たな攻撃経路を生む諸刃の剣でもあります。コストを最適化し、守るべきものを明確にする「最適化されたセキュリティ」の考え方とは何かを議論します。<ゲスト・プロフィール> 原田 篤史(はらだ・あつし)さん ウォーターデジタル合同会社 代表。水インフラとデジタル化の専門家。総合水処理エンジニアリング大手・オルガノ株式会社にて、長年水処理エンジニアとして国内外で活躍。タイ赴任時には、経営から人事まで幅広い業務を経験。その後、情報システム部門の責任者として、社内のIT戦略を推進した異色の経歴を持つ。現在は、その知見を活かして独立し、水インフラのデジタル化支援やコンサルティングを手掛ける。経済メディア「NewsPicks」のプロピッカーとしても、水に関する情報を積極的に発信している。 NewsPicksトピックス「技術士が解説する水関連ニュース」: https://newspicks.com/topics/news-water/ X: https://x.com/HaradaAtsushi1 LinkedIn: https://www.linkedin.com/in/haradaatsushishi/ Note: https://note.com/watereng/all ■□ 収録後記 □■ 収録を終え、日常の当たり前がいかに脆いバランスの上に成り立っているかを改めて痛感しました。原田さんのお話にあった「水は無色透明なので気が付きづらい」という言葉が特に印象的です。電気が止まればすぐに気づきますが、水質の異常は、健康被害という最悪の事態に至るまで表面化しない可能性があります。 日本の水インフラが抱える「老朽化」と「担い手不足」の問題は、まさに"静かなる危機"と言えるでしょう。高度成長期に一斉に整備された設備が、今、一斉に悲鳴を上げ始めている。この課題に対し、デジタル化が光明である一方で、アメリカの浄水場攻撃の事例が示すように、新たな脆弱性を生み出す危険性もはらんでいます。攻撃者は、防御の最も弱い一点を突いてきます。 今回の対談から、私は、サイバーセキュリティが単なるITの問題ではなく、私たちの生命や社会基盤そのものを守るための「総力戦」であることを学びました。経営企画が主導するM&Aの段階から情報システム部門が関わることの重要性や、現場で使われる一台のPCのOS管理まで、全ての点が繋がっています。 原田さんのお話は、水という身近なテーマから、地政学的なインフラ防衛の重要性までを地続きで理解させてくれる、非常に示唆に富むものでした。 (ホスト:JCGR 川端隆史)

    45 min
  6. JUN 12

    中国テックのリアルを解き明かす:DeepSeekの衝撃、AI六虎の台頭、そしてサイバーセキュリティの今(ゲスト:ジャーナリスト 高口康太)

    中国のテクノロジーは今、どうなっているのか? かつての「深圳ブーム」以降、米中対立やコロナ禍を経て、最前線の情報は日本に届きにくくなっています。しかし、その間にも中国の技術革新は止まることなく、新たなプレイヤーが次々と登場し、独自の進化を遂げています。 今回は、中国を専門とするジャーナリストで千葉大学客員准教授の高口康太さんをゲストにお迎えし、情報のベールに包まれがちな中国のテクノロジーとネットの「今」を深掘り。社会現象を巻き起こした生成AI「DeepSeek」の実態から、知られざるサイバーセキュリティ事情、そして米中技術覇権の未来まで、等身大の中国像に迫ります。 ■□ハイライト □■ 沸騰する中国AI最前線:「AI四小龍」に代わる「AI六虎」の台頭や、ダークホース「DeepSeek」が引き起こした社会現象、さらに人型ロボットなどディープテック企業群「杭州六龍」の勃興まで、中国AIのダイナミックなプレイヤー交代と進化の実態を解説します。知られざるサイバーセキュリティ事情:「世界最大のサイバー攻撃被害国」と主張する中国。独自の「サイバーセキュリティ法」や市場の実態、日本企業が現地でビジネスを行う上で知っておくべき特有のルールやプレイヤーについて語ります。米中技術覇権の行方:シンギュラリティを目指す米国と、実用・社会実装を重視する中国。AI開発における根本的な思想の違いが未来をどう左右するのか。そして、なぜイーロン・マスクの事業と中国の国家戦略は奇妙に一致するのか、その深層を読み解きます。"ポスト"深圳ブームの担い手たち:2010年代のビジネスモデル主体のイノベーションから、博士号を持つような研究者たちが起業するディープテックの時代へ。中国の技術がより「深く」なっている現状を、具体的な企業名を挙げて紹介します。<ゲスト・プロフィール> 高口 康太(たかぐち・こうた)さん ジャーナリスト。 中国の経済、企業を中心に取材、執筆活動を行う。 企業の視点や消費者の視点から中国を捉えるアプローチに定評がある。 近著の『ピークアウトする中国』(文春新書、神戸大学・梶谷懐教授との共著) など多数。雑誌の連載やメディア出演も多い。 1976年、千葉県生まれ。ジャーナリスト、千葉大学客員教授。千葉大学人文社会科学研究科博士課程単位取得退学。中国・天津の南開大学に中国国費留学生として留学中から中国関連ニュースサイト「KINBRICKS NOW」を運営。中国経済と企業、在日中国人経済を専門に取材、執筆活動を続けている。 著書に『ピークアウトする中国 「殺到する経済」と「合理的バブル」の限界 』(文春新書、共著)、『幸福な監視国家・中国』(NHK出版、共著)、『中国S級B級論』(さくら舎、共著)、『プロトタイプシティ 深圳と世界的イノベーション』(KADOKAWA、共編、大平正芳記念賞特別賞受賞)、『中国「コロナ封じ」の虚実 デジタル監視は14億人を統制できるか』(中公新書ラクレ)、『習近平の中国』(東京大学出版会、共著)など。 ■□ 収録後記 □■ 収録を終え、メディアで日々報じられる政治的な側面とは全く異なる、ダイナミックで多層的な中国のテクノロジーエコシステムを改めて実感しました。 高口さんのお話から見えてきたのは、かつての体力勝負やアイデア勝負の時代から、博士号を持つ人材がキーとなる「ディープテック」の時代へと、中国のイノベーションが質的に大きく変化している姿でした。「AI六虎」や「杭州六龍」といった新しい言葉と共に語られる企業の多くが、AIやロボティクスといった高度な技術を核にしているという事実は、その象徴でしょう。 特に印象的だったのは、米中のAI開発における思想の違いです。シンギュラリティという壮大な目標を追う米国に対し、中国はより実用的で、社会実装のスピードと手数を重視する 15。どちらが未来の覇権を握るのか、技術の優劣だけでは測れない複雑な競争の構図が浮かび上がりました。 また、サイバーセキュリティに関しても、「攻撃側」というイメージが強い中国が、実は「世界最大の被害国」でもあり、独自の法制度で国内の防御を固めているという話は、非常に興味深い視点でした。 好き嫌いやバイアスを排し、中国の「今」を等身大で捉えることの重要性。高口さんのお話は、情報が届きにくくなっている今だからこそ、私たちが中国と向き合う上で不可欠な視座を与えてくれます。今回の放送が、皆様にとって、中国のリアルな姿を知る一助となれば幸いです。 (ホスト:JCGR 川端隆史)

    53 min
  7. MAY 22

    技術覇権のサイバー地経学:生成AI・半導体・サステナビリティ・量子の新潮流を日本IBM 平山毅氏と読む

    生成AIの急速な台頭、そしてそれを支える半導体開発競争、サスティナビリティの課題、新しいコンピューティングとしての量子技術への期待、は今、国際的な技術覇権の行方を左右し、「サイバー地経学」という新たな視点をもたらしています。これらは、企業や国家が適応すべき複雑な外部環境そのものです。  今回は、これらの先端技術と国際動向に深い知見を持つ日本アイ・ビー・エム株式会社エコシステムテクニカルリーダーシップの平山毅さんをゲストにお迎えし、技術革新が地政学や経済安全保障にも与えるインパクトと、私たちが取るべき針路について深掘りします。 ■□ハイライト □■ 生成AIの進化とサスティナビリティ: 生成AIの進化が求める膨大なコンピューティングリソース、それを巡る国家間の競争、そしてデータセンターの持続可能性といったサスティナビリティの課題を地政学的な視点から解説します。IT発展史と国家戦略: インターネット黎明期からクラウド、そしてAIへ。技術革新の歴史的背景と、それが米中をはじめとする国家戦略にいかに組み込まれてきたかを紐解きます 半導体エコシステムと経済安全保障: 設計と製造の分業が進む半導体 業界。AI時代におけるその重要性と、IBMが関わる日本のRapidusなど、 経済安全保障の観点からの取り組みを語ります。量子コンピューティングの衝撃と安全保障: 現行の暗号技術を脅かす量子コンピュータの出現。その技術開発競争と、国家安全保障やサイバーセキュリティにもたらすパラダイムシフトに迫ります。日本のITと未来への針路: グローバルな技術競争の中で、日本が今後どのような戦略でIT分野のプレゼンスを高めていくべきか。2027年を見据えた日本の課題と可能性を提示します。<ゲスト・プロフィール> 平山毅(ひらやま・つよし)さん 日本アイ・ビー・エム株式会社 テクノロジー事業本部 エコシステムテクニカルリーダーシップ    東京都立日比谷高等学校卒業。東京理科大学理工学部卒業。早稲田大学大学院経営管理研究科ファイナンス専攻修了(MBA Finance)。東京証券取引所で派生商品開発、経営企画、ITサービスマネージャー、野村総合研究所でファイナンシャルエンジニア、黎明期のアマゾンウェブサービスでエンタープライズソリューションアーキテクト、プロフェッショナルコンサルタントを経て、2016年2月日本IBM入社。クラウド事業、Red Hatアライアンス事業、Data AI事業、ガレージ事業、クライアントエンジニアリング事業、エコシステムエンジニアリング事業、の立ち上げを経て、2025年より現職。Linux Foundation Decentrilzed Trust Japan Chapter Lead、情報処理学会デジタルプラクティス編集委員。国立情報学研究所日本語大規模言語モデル研究メンバー。スタートアップ企業アドバイザー、大学講師、海外講演、対談記事、著作など、多数。北陸先端科学技術大学院大学、長岡技術科学大学博士課程在学研究員。 Linkedinアカウント https://www.linkedin.com/in/tsuyoshihirayama/ ■□ 収録後記 □■ 収録を終え、生成AI、量子コンピュータ、半導体といったキーワードが、単なる技術トレンドではなく、国家の競争力や未来を左右する「サイバー地経学」とも呼ぶべき大きなうねりの中心にあることを改めて痛感。 平山さんのお話は、現在のITが90年代のインターネットの加速的な普及や、さらに遡れば冷戦構造の変化といった歴史的な出来事の延長線上にあり、常に国際的なパワーバランスや国家戦略と不可分であったことを、具体的な技術の進化と共に示しました。  特に、生成AIの飛躍的な進歩がなぜ今なのか、その裏でどれほどのコンピューティングパワーが求められ、それが半導体やデータセンターのあり方、さらには国のエネルギー政策や経済安全保障にまで影響を及ぼしているのか。点と点がつながり、壮大な絵図が見えてくるような感覚でした。 また、量子コンピュータが実用化された際の社会変革の可能性と、同時に既存のセキュリティを無力化しかねないという「諸刃の剣」である点も。SFの世界ではなく、すぐそこにある未来の課題として捉える必要があるでしょう。 平山さんが最後に触れられた、日本がこの大きな変革期にどう立ち向かうべきかという提言は、私たち一人ひとりが自国の未来を考える上で重要な示唆に富んでいます。 今回の放送が、皆様にとって、テクノロジーとそれを取り巻く世界の動きを新たな視点で見つめ直すきっかけとなれば幸いです。  (ホスト:JCGR 川端隆史)

    59 min
  8. MAY 8

    ISMSとISOの新局面:脱炭素と地政学がもたらす変化と対応策を専門家が語る(ゲスト:笹原英司クラウドセキュリティアライアンスジャパン代表理事)

    ISOやISMS(ISO27001)は今、クラウド技術の進化、カーボンニュートラルへの要請、そして地政学リスクといった現代の複雑な外部環境に、企業が適応していくための重要な指針となっています。 今回は、クラウドセキュリティアライアンスジャパン代表理事でISOの動向に精通した笹原英二さんをゲストにお迎えし、これらのテーマが企業経営に与えるインパクトと、私たちがビジネスで対応すべきポイントを深掘りします。 ■□ハイライト □■ ISO・ISMSと地政学: ISO基準の策定プロセスやISMSのガイド改訂における地政学的な影響力がITインフラにもたらすリスクについて専門家の視点から解説します。クラウドセキュリティの新潮流: ISO27001(ISMSの基礎となる規格)やISO27017といったクラウドセキュリティ基準の重要性 、そして米国のビッグテック企業が国防総省レベルのセキュリティ基準をどのように展開しているのか、その実態に迫ります。SaaS利用の盲点と責任: 利用者側が見落としがちなSaaSのセキュリティ課題や、シャドーITの問題、そしてインシデント発生時における法人代表者の責任について警鐘を鳴らします。デジタルサプライチェーンと環境負荷: サプライチェーン全体でのセキュリティリスク管理や、データセンターのカーボンニュートラルへの取り組みなど、クラウド利用と環境問題の密接な関係を解き明かします。日本企業への提言: グローバル競争を勝ち抜くために日本企業がISO・ISMSへどう対応していくべきか。欧米企業との比較を交えながら、具体的な課題と解決のヒントを提示します。 <ゲスト・プロフィール> 笹原英司(ささはら・えいじ)さん クラウドセキュリティアライアンスジャパン・代表理事 NPO法人ヘルスケアクラウド研究会・理事 宮崎県出身。千葉大学大学院医学薬学府博士課程修了(医薬学博士)。労働省、ダウジョーンズ、IDCジャパン、デロイトトーマツサイバー合同会社等でデジタルマーケティング全般(B2B/B2C)および健康医療/介護福祉/ライフサイエンス業界のガバナンス/リスク/コンプライアンス関連調査研究/コンサルティング実績を持つ。現在、クラウドセキュリティアライアンス、在日米国商工会議所、グロバルヘルスイニシャチブ(GHI)等でビッグデータのセキュリティに関する啓発活動を行っている。IT Media/Monoistでクラウドセキュリティや海外ヘルスケア事情に関する長期連載中(https://www.itmedia.co.jp/author/208938/)など、講演や執筆多数。 Twitter:https://twitter.com/esasahara LinkedIn:https://www.linkedin.com/in/esasahara ■□ 収録後記 □■  収録を終えて、改めてISOやISMSといった国際標準が、私たちのビジネス環境と想像以上に深く、そして多角的に関わっていることを実感しています。 クラウドセキュリティや国際標準の話と聞くと、どうしても専門的で少し距離を感じる方もいらっしゃるかもしれません。私自身も、お話を伺うまではそうした側面があると感じていました。しかし、笹原さんのお話は、それらが日々のニュースで触れる地政学的な動きや、企業の喫緊の課題であるカーボンニュートラルといったテーマと、具体的な事例を通じて結びつけてくれるものでした。 特に興味深かったのは、クラウドサービスを支える技術が、環境負荷や企業のサステナビリティとどう関わり、それがISOのような国際的な取り決めの中でどう議論されているか、という視点です。普段あまり意識しないところで、実は様々な要素が連動しているのだなと、改めて考えさせられました。 笹原さんが触れられたように、こうした「外部環境」の変化を理解し、それに合わせて企業全体で「適応」していくことの重要性は、今後ますます高まっていくのでしょう。今回の放送が、皆さまの組織内で、そうした新しい視点からの対話や、次の一歩を考える上でのヒントになれば幸いです。 (ホスト:JCGR 川端隆史)

    51 min

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ジョーシスサイバー地経学研究所(JCGR)が「サイバー地経学」の視点から発信するポッドキャスト。サイバーセキュリティ、地政学、経済・マーケット、各国事情に精通した専門家をゲストに招いた対談や、JCGRによる独自研究の解説を配信しています。毎月、第2・第4金曜日の朝に配信。

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