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Ep.653 Claude for Life Sciences──研究の“段取り”まで面倒を見るAIへ(2025年10月23日配信)

発表は2025年10月20日、Anthropicの公式ブログでした。研究者や治験コーディネーター、薬事担当までを対象に、Claudeを“発見から実装・商業化まで”の流れで支える改良を一挙に展開。基盤のSonnet 4.5は、ラボ手順理解を測るProtocol QAで0.83と、人間ベースライン0.79や従来版の0.74を上回ったと説明されています。ライフサイエンス領域での“読み・書き・段取り”の足腰を固めた格好です。

実務連携の核はコネクタ群です。Benchlingに結び、実験ノートや記録へ根拠リンク付きで回答。BioRenderで図版素材を呼び出し、PubMedやWileyのScholar Gatewayで査読文献を横断。Synapse.orgで共同プロジェクトのデータを扱い、10x Genomicsの拡張で単一細胞や空間解析を自然言語から回せるようにしました。既存のGoogle WorkspaceやMicrosoft 365、DatabricksやSnowflakeとの連携も前提に、研究現場の主要ツールをひとつの会話に束ねます。

加えて、先週発表のAgent Skillsを科学用途に最適化。フォルダ一式で渡す手順やスクリプトをClaudeが必要なときだけ読み込み、品質管理まで“やり方”を守らせる設計です。初期スキルとして単一細胞RNA-seqのQC用single-cell-rna-qcが提示され、研究者自身が自前のSkillを作るための手引きも用意されました。

用途は文献レビューや仮説生成、Benchling連携でのプロトコル起案、Claude Codeによるバイオインフォ解析、薬事・コンプライアンス文書の下書きまで幅広く、最適なプロンプト群のライブラリも提供されます。導入の“つまずき”を減らすためのガイドがヘルプセンターにまとまっているのも実務的です。

パートナーと導入先の顔ぶれも明快です。Caylent、Deloitte、Accenture、KPMG、PwCなどSI勢と、AWS・Google Cloudのクラウド連携を並走させつつ、SanofiやAbbVie、Genmab、10x Genomics、Broad Institute、Stanfordなどが実務での活用コメントを寄せています。研究ノートや単一細胞解析の“現場の作法”にAIをなじませていく狙いが読み取れます。

提供形態は、Claude.comとAWS Marketplaceで即日利用可能、Google Cloud Marketplaceは「coming soon」。企業調達の導線にきちんと乗せ、ライフサイエンス向けの専任サポートも付けるとしています。

外部報道では、Novo Nordiskが臨床文書の準備時間を“10週間から10分へ”短縮した事例や、Anthropicが“創薬そのもの”よりも研究者のワークフロー支援に軸足を置くスタンスが紹介されました。誇大な夢を語るより、足元の生産性と監査可能性を積み上げる──そんな現実路線がうかがえます。

総じてこれは、汎用AIを“ラボの相棒”に作り替えるためのインフラ整備です。コネクタでデータの出入りを整え、Agent Skillsで“やり方”を固定し、Sonnet 4.5の読み解き力で判断ミスを減らす。AI for ScienceのAPIクレジット支援も続いており、産学の裾野を広げる呼び水になりそうです。