
Ep.684 AWS、米メリーランド〜アイルランド直結の新海底ケーブル「Fastnet」──AI時代の“大西洋動脈”を自前で(2025年11月6日配信)
11月4日、AWSは米メリーランド州とアイルランド・コーク県を直結する新たな大西洋横断ケーブル「Fastnet」を発表しました。稼働は2028年の見込みで、既存の通信用海底ケーブルとは異なる陸揚げ点を採る“経路多様性”を重視。大規模障害や断線が起きても、クラウドとAIの重要トラフィックを別経路へ逃がす“第二の動脈”を用意する狙いです。設計容量は320Tbps超で、HD映画約1,250万本を同時配信できる規模だと説明しています。
Fastnetは将来の増設も見据えています。海底区間の途中に“光学スイッチ搭載”のブランチングユニットを配置し、トラフィックを新しい陸揚げ点へ振り向けられる可変トポロジを採用。沿岸部では装甲ケーブルと追加の鋼線で物理リスクを抑え、AWSの中央集約型のトラフィック監視と組み合わせて、混雑や異常を“影響が出る前に”避ける運用をうたいます。
発表には両政府の首長もコメントを寄せました。アイルランドのミホル・マーティン首相は、「Fastnetはアイルランドのデジタル未来への信任投票であり、コークを欧州の海底通信“真のゲートウェイ”に押し上げる」と歓迎。メリーランド州のウェス・ムーア知事も、州初の海底光ケーブルがもたらす雇用・投資効果に期待を示しています。
産業文脈では、“クラウド×AIの帯域とレイテンシ”がニュースの核心です。生成AIやエージェント的なアプリは、リージョン間・大陸間のモデル配備やデータ同期に太い回線を要します。FastnetはAmazon CloudFrontやAWS Global Acceleratorの経路多様化とも連動し、米欧間のミッションクリティカルなワークロードに高い冗長性を与える設計です。海底ケーブルが国際データの95%超を担う現実を踏まえれば、自前ルートの追加はクラウド信頼性の“直球の投資”と言えます。
足元のインフラ規模も示されました。AWSの広域ネットワークは地上・海底合わせて900万km超の光ファイバーを敷設し、地球と月の往復11回分に相当。38のリージョンと120のアベイラビリティゾーンを結ぶこの網に、Fastnetが“太い横串”として加わる形です。データセンターの建設・電力・半導体に目が行きがちなAI投資ですが、実は“海の下の道づくり”こそがクラウドの安定運行を支える、とAWSは強調しています。
現地コミュニティとの関係も織り込み済みです。メリーランド東岸とコーク双方にコミュニティ基金を創設し、環境・福祉・STEM教育など地域ニーズに沿った支援を行うと表明。巨大インフラを地域の支持とセットで実現する、最近のハイパースケーラー流の進め方を踏襲しています。
最後に、タイムラインのポイントです。Fastnetは“アマゾン初の単独主導ケーブル”として報じられ、2028年の就役を目標に詳細設計と海底ルートの確定作業が進みます。欧州側の報道は、アイルランドのデータセンター集積と相まって“対米幹線の新設”を歓迎する論調で、通信・データセンター双方のレジリエンス強化という経済的効果が強調されました。
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- FrequencyUpdated Weekly
- PublishedNovember 5, 2025 at 10:00 PM UTC
- Length5 min
- Season1
- Episode684
- RatingClean