名古屋ではたらく社長のITニュースポッドキャスト

Ep.686 Googleが宇宙に“AIデータセンター”を作る日──Project Suncatcherの設計図(2025年11月6日配信)

Google Researchが「宇宙でAI計算を拡張する」設計案を公開しました。名前はProject Suncatcher。太陽光パネルとTPUを積んだ小型衛星を群れで飛ばし、衛星間を自由空間光通信でつなぐことで、将来的に“データセンター並み”のAI計算を軌道上で回す構想です。地上に比べて日照効率が最大8倍になる太陽同期軌道を前提に、地上資源(用地・水・系統電力)への負荷を抑えつつ、AIの計算需要を長期的に満たす狙いが語られました。

鍵は“衛星をどれだけ太く速くつなげるか”。Suncatcherは衛星同士を数百メートル〜数キロの至近距離で編隊飛行させ、DWDMと空間多重を組み合わせたレーザーリンクで「リンク1本あたり10Tbps級」を目標に置きます。実験室のベンチでは市販部品で片方向800Gbps(双方向1.6Tbps)を確認。リンク予算を満たすため、距離を極端に縮めるという発想が肝です。

もちろん、宇宙で“密集運用”するには力学の裏付けが欠かせません。GoogleはHill–Clohessy–Wiltshire方程式に基づく解析とJAXの微分可能モデルで、例えば高度約650kmに半径1kmの81機クラスターを想定し、隣り合う衛星が約100〜200mの距離で周回する挙動を評価。太陽同期軌道でも比較的控えめな軌道維持で安定性を保てる見通しを示しました。

ハード側ではTPUの“宇宙耐久テスト”が進みます。Trillium(v6e)を67MeVの陽子ビームに晒した地上試験では、最も敏感なHBMメモリでも累積2krad(Si)を越えるまで顕著な異常は出ず、5年ミッション想定の遮蔽下線量(約0.75krad)を十分に上回る耐性を確認。致命的故障は15kradでも認められなかったと報告されました。

経済面の仮説も示されています。打上げ費用が学習曲線で下がり、2030年代半ばにLEO到達が1kgあたり200ドル未満になれば、衛星の寿命で平準化した“打上げ由来の電力コスト”が、米データセンターの電力単価(kW当たり年額)と概ね並ぶ水準になりうる――という試算です。もちろん熱設計や地上との大容量光通信、オン軌道での信頼性確保など、越えるべき難題は残ります。

ロードマップとしては、まず“学習ミッション”。Planetと組み、2027年初頭までに試験衛星2基を打ち上げ、TPUハードの宇宙動作と分散ML向けの光リンクを実地で検証します。ここを足がかりに、将来は発電・計算・放熱を一体化した“宇宙ネイティブ”設計でのギガワット級クラスターも視野に入るとしています。

地上のAI需要が右肩上がりの中で、「電力は太陽から、計算は宇宙で」という発想は突飛に見えて、実は“物理と経済の線形”に乗せようとする真面目な試みです。地上の制約を逃がしつつ、光で結んだ“空のデータセンター”を組めるか――2027年の小さな実証が、10年先のインフラ像を左右するかもしれません。