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Ep.696 ドイツ地裁、OpenAIに著作権侵害の判断──歌詞学習は“要ライセンス”の時代へ(2025年11月13日配信)

現地11月11日、ミュンヘン地方裁判所第1法廷は、ChatGPTが著作権で保護されたドイツ語の歌詞を無断で再現したとして、OpenAIに対し著作権侵害を認める判断を下しました。原告は音楽著作権管理団体のGEMA。判決は、学習や出力の過程での歌詞利用にライセンスが必要との含意を持ち、OpenAIに損害賠償の支払いを命じています。判決は不服申立ての余地があり、双方は声明を準備中と伝えられています。欧州における生成AI規制の“方向付け”となり得る重要な一歩です。

報道によれば、対象は少なくとも9曲分の歌詞で、たとえばヘルベルト・グレーネマイヤーの「Männer」「Bochum」など具体的楽曲が例に挙げられました。OpenAIは「ChatGPTの仕組みを誤解している」と主張したものの、裁判所は歌詞の再現と学習利用の関係を重く見た格好です。英紙や業界メディアも、この判断をヨーロッパにおける先例と位置づけ、広告や検索に続いて“音楽×生成AI”の線引きが鮮明になったと伝えています。

実務の観点では、音楽分野に限らず“強い著作権”を伴う領域で、開発者・事業者に三つの波及が想定されます。第一に、データ取り扱いの再点検です。コーパス由来の“歌詞断片の記憶”を抑制するフィルタリングや推論時ガードレールの再設計、そして学習データの由来管理が避けられません。第二に、ライセンス交渉の本格化です。GEMAは集団管理の枠組みでAI向け包括許諾の構築を掲げており、判決を受けた“支払いの根拠”が強まります。第三に、係争リスクの地理的拡大です。ミュンヘンの判断は、他のEU域内でも参考にされうるため、プロダクト運用は“国・地域別の権利処理”を前提にせざるを得なくなります。

一方で、今回の結論は最終審ではなく、今後の控訴審で判断が揺れる可能性もあります。とはいえ、欧州の現場感はすでに変わりつつあります。生成AIの歌詞再現を巡る線引きは“フェアユース”が中心の米国と異なり、EUでは権利者の明示的な許諾・オプトアウト運用とセットで整理されがちです。今回の判決を材料に、音楽に限らぬテキスト・画像・脚本等の権利処理が“AI向け包括ライセンス”という形で産業化するシナリオが、より現実味を帯びてきました。

プロダクトに落とすなら、学習前・提供前・推論時の三層での対応が鍵です。学習前はデータ供給元との契約で“AI用途”を明文化。提供前は歌詞等のトリガーワード検知や引用上限のポリシー化、地域別の権利フラグ連動。推論時は“再現率が高い表現”のブロックと根拠提示の徹底です。音楽サーチや要約のような正当な利用価値を損なわないよう、ユーザー体験と権利配慮の“両利き”設計が問われます。判決のインパクトは、訴訟の行方に左右されつつも、AIの開発・運用フロー全体の標準を静かに塗り替え始めています。